デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

貧しいけど、貧しくなかった。 綴方教室[1938年]

イメージ 1平素はホラーテラーで皆殺し、な作品か深夜アニメばかり取り上げているので、このチョイスは違和感ありありですが、ちょいと琴線に触れたので。

 

「綴方教室」1938年/山本嘉次郎監督

 

綴方とは作文のこと。1930年代に、鈴木三重吉の影響下で教育運動として盛んになりつつあった生活綴方運動が背景にあります。

 

当時、本田小学校4年生だった豊田正子26篇の「綴方」が原作。

 

小学生の作文が原作というのも驚きですが、これ出版されるや大衆の生活を素直な子供らしい視点で描いたことが話題になり、大ベストセラーになったんだそうで。

 

当然、テーマは大衆の生活の活写になるわけですが、これがまあ貧しい! なんだこれはってくらい貧しい。

 

監督(6年後に加藤戦闘撮ります)は、ドキュメンタリー風な造りを意識し、ドラマ的要素を出来る限り排して、「ロケーション」を多用したそうなので、セットでは出せない本物の貧乏がそこにあります。


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豊田正子を演じるのは14歳の高峰秀子。巧い、巧すぎる。子役じゃないです。完全に女優。

 

大昔のお話ではありますが、正子がうっかり近所の人(しかも町の実力者)の悪口を書いた綴方が雑誌「赤い鳥」に掲載されてしまい大騒ぎ、なんてエピソードは「ブログにいらん事書いて大炎上」という現代の構図となんら変わっておりません。


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余談ですが、映画化の際撮影所を訪れた豊田に高峰が女工を見下した発言をしたと豊田が書いて高峰が内容証明でそれに反論するという現実を後追いでトレスする騒ぎもあったようです(豊田は小学校卒業後、女工になっています)。

 

更に余談ですが、映画では正子に綴方を指導し、親身に相談にも乗ってあげている大木顕一郎先生(滝沢修)とその奥さん(赤木蘭子)ですが、現実では正子の綴方を自身の名前で発表し、印税を着服していたようで、いやはや悪い奴ほどよく眠る(こじつけ以外の何物でもないですが、本作の制作主任は黒澤明)。

 

貧しさに対して文句は言うし愚痴も垂らしますが、実の所、皆そんなに深刻ではない辺り、妙に癒される作品でした。

 

『だから言ったろう。明日は明日の風が吹くってよ』



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