『本当に解剖材料だよね、この町の人は…』
横浜に生まれ育った私ですが、ここに足を踏み入れたことはありません(物見遊山で行っていい所でもありません)。
この町に1年近く住み込み、そこに暮らし、そこで死ぬ人々の生き様死に様を追ったドキュメンタリー。
「どっこい! 人間節 寿・自由労働者の町」
(1975年/小川プロダクション)
1975年。国は田中、ハマは飛鳥田。日本列島改造の時代。
立ち並ぶドヤは3畳一間400円。しかし、それすらも払えずに野宿し野垂れる人々がいる。
カメラの前で元気に話してくれた人が次のカットでは遺影になっている。ここでは命がひどく、安い。
作業中の事故で左足を失った田中さん。朗々たる喉を披露してくれましたが…。
身寄り無き者たちの合同慰霊祭。仲間の死を悼んでいるだけなのに、葬儀の列は警棒抜いた警官に監視され…。
ぱたりと仕事の途絶えた冬、年末。炊き出しと公民館開放による“越冬”。まるで災害避難所。
そして観終わって感じるそこはかとない違和感と嫌悪。それは小川プロが撮りたかったものとこちらが観たかったものとの乖離。
小川プロが撮りたかったのはどこまでも個。寿にやって来た人々の自分史の記録。
対してこちらが観たかったのは寿という生き物。
寿という町が何故生まれ、どう変わり、何故生きながらえているのか。
嫌悪の元は撮影の姿勢。
ドキュメンタリーに必要不可欠な検証の欠落。合同慰霊祭を監視する警官が警棒を抜いたのなら、何故警棒を抜いたのか、警察官にカメラを向けるべきです。回答がないならその無言を回答として記録すべきです。
田中さんの遺体が5日も身元不明で放置されていたのなら何故その事を警察に問い詰めないのか?
偶然撮れたもの(苦労なく撮れたもの)を素材として編集しているだけのように(私には)見えます。
ドキュメンタリーとしては喰い足りない、が正直な感想。
以下、余談。寿を舞台にした映画はちょっと思いつきませんが、小説はあります。
お薦めは花村萬月の「ブルース」
狂おしくも切ない歪んだ愛と暴力の物語。
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