『あんた一体誰なんだ?』
『HIROSHI SHIBA!(司馬宙だ!)』
人は皆なりたいものになれる。その宣言が名乗り。しかし、この名前をこんな所で聞くことになろうとは…。
「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」(2015年/ガブリエーレ・マイネッティ監督)
どーんと日本語でタイトルクレジットが出たのでまた配給会社(ザジフィルムズ)が余計なことしやがったかと思いましたが違いました。
なんと本作は“LO CHIAMAVANO JEEG ROBOT 皆はこう呼んだ「鋼鉄ジーグ」”がイタリア版正式タイトルなのです。
監督自らがイタリア語タイトルを日本語訳したんだとか。日本語の正しいニュアンスとしては「人呼んで鋼鉄ジーグ」なのかもしれませんが、どちらが邦題として優れているかと言えば間違いなく「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」でしょう。
続発する爆破テロに怯えるローマ。ケチな泥棒稼業で糊口をしのいでいるエンツォ(クラウディオ・サンタマリア)は逃走途中に川にドボン。ついでに不法投棄された核廃棄物タンクにもドボン。
翌日、故買屋のセルジョの手伝いで麻薬取引の現場に行ったら運び屋1号が死亡(何の説明もありませんでしたが、ビニールに詰めた薬を飲み込んで密輸したらビニールが腸内で破けてオーバードーズ)。パニックになった運び屋2号が銃乱射。
セルジョ死亡。エンツォも被弾した上、工事現場の9階から落下して死亡…のはずが傷ひとつない。おかしい。何か腕力も凄いことになっちょる。
『おええ。し、死ぬかと思った…』
『あれ、なんか力が…』
この核廃棄物浴びたらスーパーマンって科学的根拠がびた一文ない設定もいい加減如何なものかと思いますが、本作に関しては「悪魔の毒々モンスター」リスペクトって事でよしとします。
突然手にしたスーパーパワーですが、何せ小悪党なので使い道が分かりません。
とりあえずATM強盗して、エロビデオ爆買い。空の冷蔵庫に大好きなヨーグルト詰め込んでご満悦。おお、小さい、小さすぎるぞエンツォ!
ほとんどの紙幣はATMのインク噴霧機能で使い物にならず…。
死んだセルジョにはひとり娘のアレッシア(イレニア・パストレッリ)が。
この娘、少女ではなく立派な大人なのですが、母親の死(と後に発覚する父親の性的虐待)からの現実逃避でアニメ「鋼鉄ジーグ」の世界に入り浸り、ついでに現実とアニメの区別がつかなくなっている残念美人。
エンツォのスーパーパワーを見たアレッシアは、エンツォとジーグの主人公・司馬宙を重ねて「人類のために力を使って。闇の日から世界を救って」と懇願しますが、仲間は勿論、友達と呼べる人間もいない天涯孤独の小悪党にそんなこと言われても…。
しかし、盗んだ金で買った「鋼鉄ジーグ」DVD-BOXをアレッシアと観賞するうちにエンツォの心にも司馬宙の魂が!
プロジェクターも買った。金ならある(←現金輸送車襲った)!
以前、マイネッティ監督がイタリア語版タイガーマスクについて熱く語っていたインタビューをご紹介しましたが、日本のアニメが他民族の血肉に溶けていくというのは感慨深いです(やはり同盟国は感性が近いのだろうか…)。