野次と喧嘩は江戸の華…かどうかはさておき、間違いなくプロレス会場の名物と言っていい風習(?)に“野次”があります。
歌舞伎の掛け声(「成田屋!」「紀伊国屋!」)のように絶妙なタイミングで場を盛り上げるものもあれば、滑りまくって会場を白けさせたり、ヘイトまがいの野次で試合をぶち壊してしまう本末転倒なものまで。
最近でも心無い野次で観客の不快指数メートルを上げまくった輩がいたそうで(観客トラブルで場外乱闘)。
歌舞伎のように「大向こう」限定の資格制度(?)と違い、誰でもいつでもな自由さが仇になるケースですね。
掛け声系の合唱(古すぎる例えで恐縮ですがメジャーなら『ツールータ!オー!』、マイナーなら『アーサーコ!アー!』)を除けば、プロレス会場の野次は基本単発。
ただ一度だけ“掛け合い”が成立した瞬間を目撃した事があります。
日付けは完全に忘れてしまいましたが(それくらい昔の話と言う事)、FMWの後楽園ホール大会。
大仁田率いるFMWは「なんでもあり」が信条。小人プロレスから女子プロレス、デスマッチに至るまで。
ある日の興行でここに“ルチャ・リブレ”が加わりました。見た事も聞いたこともないレスラーでしたが、まだユニバーサル・プロレス旗揚げ前。本場のルチャを観る機会なぞなかったので、期待に胸膨らませていたのですが、この試合がまあショッパイ。
華麗な空中殺法どころか、お前らプロレスそのものがシロートだろ、なもっさりした展開。
あまりに硬直した試合運びに耐え切れなくなった北側の観客が叫びました。
『頼む!なんとかしてくれ!』
すると南側の観客が
『メキシコ語で言ってやれ!』
最後に天井桟敷の観客が
『アミーゴ!アミーゴ!』
正に流れるような連携。北→南→桟敷という華麗な3次元立体野次。
野次は愛。
最近はすっかり会場から足が遠のいてしまいましたが、観客の皆様におかれましては是非とも愛ある野次を飛ばして欲しいと思います。