『今日は買い物に来た』
『そうか。何が要る?』
(眼でショットガンを指す)
『防犯用か?(Home protection?)』
『狩りだ(Hunting)』
『奴が誰だと思う? 俺たちが追っているのは死神だ』
連絡を受けているのは刑事。場所は警察と癒着しているマフィアのボスの家。
背後の壁には猟銃と成果。ボスもまた狩りが趣味のようですが…。
『クリーン、探されてるぞ。ヤバそうな奴らに』
『ああ、知ってるよ』
『復帰か?(Back?)』
『ああ』
死神の御帰還。「タクシードライバー」「レオン」「アジョシ」「イコライザー」「ジョン・ウィック」、変化球で「Mr.ノーボディ」と「SISU/シス 不死身の男」。
漢なら死ぬまでに一度は演りたい「チョロイ相手だと思ったら死神だった」。
大抵は「裏社会で名の知れた過去」が定番なので、トラビス・ビックルはちょっと違うかもしれませんが、この人は別の意味で「死神」なので、オリジンとして(そして本作のあからさまな引用元として)名を連ねておきたいところです。
「クリーン ある殺し屋の献身」(2021年/ポール・ソレット監督)
ニューヨーク。ゴミ回収の清掃員として働くクリーン(エイドリアン・ブロディ)。
掃きだめな街に対する独白と帰り着いて出番を待っている配車センターは完全に「タクシードライバー」。
続く、薬物依存症の自助グループのシーンの語り手がトラヴィス。何と言う確信犯。
お話はクリーンの淡々とした日常、彼を世捨て人に変えた過去のトラウマ、近所に住む少女ディアンダ(チャンドラー・アリ・デュポン)との交流を静かに重ねていきます。
街には権力と結託しているマフィアのボス、マイケル(グレン・フレシュラー。主要取扱品目は生魚に仕込んでいるヘロイン)が。
ヘロインの量を誤魔化した中国人には社会人としてお仕置きを。
更にこの生家の事業と父の教育方針が気に入らない跡取り息子マイキー(リッチー・メリット)が絡んでくるのですが…。
絡みの必然性がすこぶる弱い。😭
空き家の壁塗り直し(ボランティア)の最中、謎の少女に導かれてパイプレンチ(給水管の取り外しに使うごっつい工具)を入手(パイプレンチを取りますか? はい/いいえ)。
その帰り道、とある建物の前でディアンダの自転車(クリーンがあげた)を見つけたクリーンが中を覗くと中でディアンダがレイプされかかっていました(建物は黒人のマリファナ・パーティの会場)。
クリーンはパイプレンチを女神から授かったエクスカリバーのように振りかざして室内の黒人を片っ端からボッコボコに。
この中に父親に反抗して黒人グループに混ざっていたマイキーがいたから、さあ大変(何度目だよ、この設定)、マフィアに復讐の的にかけられてしまいした(警察を手足に使えるので車のナンバーから簡単に身元割れ。携帯の録画映像からディアンダも身バレ)。
追手を返り討ちにしつつ、争いに終止符を打つためボスのアジトを目指すという流れなのですが、行為(原因)と結果(代償)のバランスがなんとも微妙。
ディアンダは拉致られたわけではないですし(多分興味本位でマリファナ・パーティに参加した)、マイキーはその場にいただけでディアンダをレイプしようとしたわけではありません。
なのに、顔面ささらもさらにされて口もきけないレベルの障害が残る怪我を負わされるってのはちと気の毒というか。
そら親父も(日頃の行いはさておき)怒髪衝天になるよなあ。
「アジョシ」の「お母ちゃん全身腑分け」みたいな極悪非道感があったり、ディアンダがマフィアと(不可抗力的にでいいから)接点を持っていたりなんて事があると、クリーンの行動に説得力と必然性が増したと思うのですが。
ウッドストックを切断し、銃身に亜酸化窒素(nitrous oxide)の缶を取り付けて、実質的に大砲(Cannon)と化したショットガン。こういう細かい細工や機能(効果)をもちっと丁寧に描写してくれれば気分が盛り上がったのに…。
出陣前の身支度。背中の彫り物はお約束。相棒はいつものゴミ収集車ですが、そのシルエットは完全に装甲車。
で、クライマックス大乱闘に雪崩れ込むのですが、意図的に爽快感は無し。寂寞感で〆たい気持ちも分からなくはないですが、やっぱり力の解放にはカタルシスを伴ってほしいと思います。
後出しジャンケン企画の割りには新規性に乏しい(と言うか全く無い)というのも残念ポイントでした。
★歴戦の死神の戦いぶりを今一度ご覧あれ!
★本日のTV放送【20:15~BS12】