僅か35分の中に流れる濃密な映像。
大スケールのジオラマ人形劇。
「狭霧の國」(2019年/佐藤大介監督)
狭霧(さぎり)…秋の季語ですが、大分県由布市から別府市へ向かう県道11号沿いに位置する由布院の町並みが一望できる展望スポットの名前でもあります。
お話の舞台はその大分県。時に明治42年。
突然、会った事もない双子の兄が死んだと言う報せを受けた栄二は行ったこともない生まれ故郷を訪れることに。
乱歩や横溝を思わせる出だしです。
栄二が何故、故郷から切り離された生活をしていたのかは不明。
初対面となる実の母の家は所謂「本家」。権力家系のようですが、跡取りとなる栄一が死んだので急遽、弟の英二が呼び戻された、という図式のようです。
母屋の横には大きな蔵。そこには盲目の少女・多紀理が。
多紀理が爪弾いていた楽器は月琴。
中国発祥の伝統楽器。江戸時代から幕末、明治、大正期にかけて流行しましたが、日清戦争時に「敵性楽器」とされて廃れてしまったそうです。
「必殺仕業人」でお歌(中尾ミエ)が毎回弾いていたのも月琴でした。
多紀理は故郷を捨てて出て行った叔母が異人との間に儲けた子。戻ってきたものの因習渦巻く田舎町で受け入れられるはずもなく、娘ともども湖に投身。死に損なった娘はこの時に「死んだ事」にされて蔵に匿われて(施錠はしていないがほぼ幽閉)いたのでした。
因みに多紀理の目が見えないのは入水前に母親に潰されたから。
ある夜、栄二は多紀理の母が身を投げた湖に生息する巨大怪獣(シルエットは首長竜)と心通わせている様子を目撃してしまいます。
怪獣は湖の主で、資料によると名前は「ネブラ」で漢字表記は「天乃狭霧」(エンドクレジットでは単に怪獣)。
乃の字が違う「天之狭霧神(あめのさぎりのかみ)」(古事記に登場する神。山の神である大山津見神 と野の神である鹿屋野比売神との子で霧の神)との関係は不明。
「ゆらぎ荘の幽奈さん」に登場する「雨野狭霧」との関係は更に不明。
お話戻って。この町は現在、ダム建設を巡って本家と住民が真っ二つ。
神聖な湖に手をつけさせるわけにはいかない本家と、ダム利権ウハウハを夢見る住民。
ダム推進派にとって湖の怪獣とか冗談ではありませんし、その怪獣と心通わせる女(しかも死んだ事になっている異人の子)も目の上のたんこぶ。
娘には人身御供となって湖に沈んでもらい、怪獣にも鎮まってもらおうじゃないか…。
勿論、そんな事で怪獣が鎮まるわけもなく、むしろ逆鱗逆撫で。多紀理を咥えて栄二に託すと、お礼参りの大暴れ。
踏み潰す。噛み砕く。因習、土着、差別、故郷…しがらみの全てを。
花火で誘導してハンドキャノン(手持ち長筒)で殲滅をしかけますが…。
「大魔神」と「夜叉ヶ池」を足して「遠野物語」で割ったような、民話で神話な怪獣映画でした。
監督の守備範囲は、監督・脚本・撮影・照明・美術・編集・録音・特殊効果・合成・人形制作・製作。THEワンオペ。
ネブラ(天乃狭霧)の造形は、「大怪獣ガメラ」「北京原人の逆襲」などを手掛けた村瀬継蔵氏が担当。
※村瀬氏は、今年10月14日、非代償性肝硬変のためお亡くなりになりました。89歳没。謹んで哀悼を。
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