『俺の前立腺は非対称なんだ』
この映画で私が理解できた数少ない台詞のひとつ。
宇宙の法則は非対称の中に潜んでいたのか。
「コズモポリス」
(2012年/デヴィッド・クローネンバーグ監督)
ハイテク・リムジンをオフィス代わりに、国際情勢を分析しては相場を予測し、巨万の富を築き上げた時代の寵児エリック・パッカー(ロバート・パティンソン)。
人民元の動きを読みきれず破産寸前の損失を出してしまいましたが、彼には今日、どうしてもしなければならない事がありました。
彼は今日、床屋に行きたかった…。
脚本はクローネンバーグですが原作付きなので、そうそう破綻した話にはならないだろう、と思っていたのですが、ちょっと目算を誤りました。
見事に観念系クローネンバーグで、何と言うか、よく喋る「スパイダー」、出来の悪い「紅い眼鏡」、動きの無い「IZO」、まあそんな感じです。
混雑した路を牛歩の動きで進んでいくリムジン。その途上で様々な人間と会話をしていくパッカー。
「その会話に何の意味がある?!」な議論の垂れ流し。数字を捏ねくりまわしてマネーゲームなんぞに興じ、世界を動かしている気になっているが所詮はお前らただのキチガイだろ、というクローネンバーグのシニカル視線…のように見えなくも無く。
唯一、意味ありげだったのが、リムジンに往診(パッカーは毎日健康診断を受けている)に来た医者の「あんたの前立腺は左右非対称だ」。
シンメトリーという据わりの良い、完成された形の中に真理があるのか、非対称という歪みの中にこそ真実が宿るのか。
終盤、パッカーのリムジンは、デモ隊のいたずら書きで(模様的に)左右非対称となり、ドライバーは片目が潰れかけている左右非対称の顔の黒人になり、パッカーも片側だけ散発された左右非対称な頭に。
それが何を意味するのか、残念ながら私には…。
クローネンバーグ・ファンという贔屓目もあって、全編飽きずに鑑賞することはできましたが、本作を諸手を挙げて傑作と断言する方々にはちょっと鼻白むものがありますね。