南北戦争終結後、ワイオミングの大雪原。
迫りくるブリザードをやり過ごすため、ミニーの服飾店でビバークする事になった行きずりの男女9名(馬車の御者ひとり含む)。
黒人の賞金稼ぎ(サミュエル・L・ジャクソン)、白人の賞金稼ぎ(カート・ラッセル)、絞首台が待っている賞金首の女(ジェニファー・ジェイソン・リー)、新任の保安官(ウォルトン・ゴギンズ)、絞首刑巡回執行人(ティム・ロス)、ミニーから店を任されたというメキシコ人(デミアン・ビチル)、カウボーイ(マイケル・マドセン)、そして南軍の英雄(ブルース・ダーン)。
本当に行きずり?
「ヘイトフル・エイト」
(2015年/クエンティン・タランティーノ監督)
実は5年ほど前に国際線の機内コンテンツで観る機会があったのですが、ミニーの服飾店に辿り着く前に(つまり冒頭38分に渡って繰り広げられる馬車内の会話シーンで)爆睡してしまいました。
まあ、70mm想定で撮ったものを機内ディスプレイで観ようという姿勢がそもそも間違っていたわけですが…。
で、今回晴れてリヴェンジ。無駄に長い(168分)とか、全編会話まみれなんてのはタラ映画である以上「与件」なので、文句言うのは筋違い。
密室での疑心暗鬼という設定は、シチュエーション(外は猛吹雪)的にも、役者(カート・ラッセル)的にも、音楽(エンニオ・モリコーネ)的にも「遊星からの物体X」を念頭に置くべき(実際、タラは役者に参考映像として「物体X」を観せています)ですが、私が思い出したのは西村潔監督のデビュー作「死ぬにはまだ早い」(1969)。
ほぼドライブインの中だけで展開する密室劇。ラストのちょっとした捻りにも近しいものを感じます。
タラのサントラ番長ぶりは今回も健在。なんせ錦の御旗モリコーネ先生をゲットしたわけですから、伴音として「物体X」を引用するのは当然として「リーガンのテーマ(fromエクソシスト2)」までちゃっかり借用。
白銀を蹴立てて走る馬車のスローモーションにリーガンのテーマ。合います。
ミニーのお店のウリは美味いコーヒーと絶品シチュー(服飾店と言っていますが、ダイナー兼コンビニみたいな田舎の何でも屋です)。
このカレーっぽく見えるシチューが実に美味そうなんですよ。鍋に入っている時は。
これが白木っぽいお椀によそわれて、でっかい木のスプーンでヒゲ親父たちが喰いだすと何故か美味そうに見えません(笑)。
お椀の淵から垂れた汁が汚く見えちゃうんですね。
と、ここまで来て作品の評価を巧みに(?)避けている事にお気づきかと思いますが、いやぁコメントし難いわ、これ。
白人・黒人・メキシカン、南軍・北軍、義賊・盗賊・犯罪者。端から端までヘイト、ヘイトの見本市で正に看板に偽り無し。
タラと言えばほぼ全ての会話にfuck & fuckingが入っているのがお約束ですが、今回はfuck控えめ。
代わりにnigger、niggerの大合唱。
この互いに「歩み寄る気なんざ微塵もないぜ」「我が信念に揺るぎ無し」な差別と対立の心が何とも居心地悪く…。
時代設定的にしゃーないっちゃーしゃーないのですが、「女を吊るす事に迷いはないのか」とか言っていた奴が嬉々として女を吊るそうとする姿に何とも索漠とした思いが残ってしまいました。
余談ですが、エンド・クレジットの中に「ビジュアル・エフェクト・デザイン ジョン・ダイクストラ」の名前を見つけてちょっとびっくり。
★ご参考
本作でも《SIX HORSE JUDY》(6頭立て馬車を御せるジュディ)として出演していたゾーイ・ベル姐さんが大活躍するタラ作品が、
で、やっぱりタラ作品と言えば、何はなくとも、
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★本日5月12日は風吹ジュン(1952~)の誕生日(おめでとうございます!)
79年(27歳)と91年(39歳)の美味しそうなところを2本立てでどうぞ。
★もうおひとり、本日は漫画家・萩尾望都先生(1949~)の誕生日(おめでとうございます!)
先生の作品を単独で取り上げたことはないのですが、関連してこちらを。