『肉の焼けるいい匂いがする』
『喰いたくなっちまうなぁ…』
目の前には焼却炉。炙られているのは文字通りバラした老人の死体。
眺めているのは身寄りのない老人をぶち転がした後、土地も転がして金に換える不動産ブローカー、木村(リリー・フランキー)と、実行担当の元暴力団組長、須藤(ピエール瀧)。
頭のネジも心のタガも弾け飛んだマーダー・ライド・ショーの終点は…。
「凶悪」(2013年/白石和彌監督)
死刑判決を受けて上訴中だった元暴力団組長の被告人・後藤良次(劇中では須藤=ピエール瀧。以下、須藤)の未発覚殺人事件3件を、雑誌「新潮45」(劇中では「明潮24」)の編集者・宮本太一(劇中では藤井修一=山田孝之。以下、藤井)が須藤との取材を通じて告発した所謂「茨城上申殺人事件」の映画化(原作は、新潮45編集部編『凶悪 -ある死刑囚の告発-』)。
須藤によれば、3つの事件すべてが「先生」と呼ばれる不動産ブローカー、三上静雄(劇中では木村孝雄=リリー・フランキー。以下、木村)の指示によるものだったと言う。
正確性を欠く須藤の証言と「やくざが不動産ブローカーと組むなんて当たり前すぎて面白くない」という編集長判断で、一旦は没企画となりますが、藤井は独断で調査を開始。証言の穴をひとつひとつ埋めて木村を追い込んで行きます。
…ってちょっと待て。企画に待ったをかけた女性編集長、「新潮45」がモデルって事はあなた、中瀬ゆかり?
サイバラ漫画の方が馴染み深いキャラなんで人物が重なるまでちょっと時間がかかりました。
左から「凶悪」「本人」「サイバラ漫画」。映画版、ちょっと盛ってないか。
お話の裏には、家族にとってはお荷物でしかない老人の処理(藤井の家にも認知症の母親がいますが、藤井は仕事を理由に目を背け、妻との関係が破綻しかかっている)という現代に蘇る楢山節考的側面もあるのですが、ピエールとリリーの怪演が全てを上塗りかき消し…。
キレたら止まらないピエールの「どう見ても本物」な迫力もなかなかでしたが、人でなしな状況を無邪気に楽しむリリーのヤバさが半端ありません。
スタンガンを見て興味津々。「やらせてやらせて」と手に取って、はしゃぎながら老人に押し当て喜ぶさまはちょっと引く、なんてもんじゃありません。
藤井の事なかれ無責任を糾弾する妻役に池脇千鶴。この作品の中で唯一「正しい事」を言っています。
エンタメとしての面白さは皆無なので激しく観る人を選びますが、肩に力が入りっぱなしの2時間8分でした。
★ちょっと犯罪の方向性が似ている
※でんでんの死体焼却には秘伝のレシピがありました。
★白石和彌監督作品×2
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★本日10月22日は草笛光子(1933~)の誕生日(おめでとうございます!)