「ノストラダムスの大予言」と並ぶ東宝封印大作…があっさり視聴出来てやや腰砕け(笑)。
どんな人でなしな描写があるのかと期待に胸躍らせ(「人でなしはお前だ!」という声が聞こえてきそう)ましたが、果たしてその実態は…。
「獣人雪男」(1955年/本多猪四郎監督)
ヒマラヤの雪男に材を取っていますが、基本骨子は「キングコング」。
冬の日本アルプスで雪崩に遭遇し、山小屋に逃れたもののそこで「何か」に襲われた東亜大山岳部のメンバー2名。
山小屋には主人とメンバー1名の遺体。
打ち破られた壁の周囲には熊とも違う獣の体毛と巨大な足跡が。
急遽、捜索隊を編成するも残る一人は発見できず。
雪解けを待って再度、今度は人類学者・小泉の指揮でアルプスに入った山岳部。
目的は勿論、行方不明となった仲間の捜索、そして謎の生物の発見。
しかし、その裏では、以前より謎の生物=雪男に目をつけていた自称「日本一の動物ブローカー」大場商会が雪男捕獲に動いておりました。
そしてアルプス奥深くには雪男を「主」と崇める辺境部落民が…。
という3グループが主な登場人物。
雪崩やがけ崩れといった特撮は気合の入った出来栄えで、さすが東宝、さすが円谷。
問題はそれ以外のあれやこれや。封印云々とは関係なしに作品構成上得心のいかない所が多すぎ。
❶全部回想という悪手。
本作は下山してきた捜索隊メンバーが駅で列車の到着を待っている所に新聞記者がやってきて「何があったんですか」と問いかけ、メンバー代表の宝田明が答えるという回想形式をとっています。
回想なので宝田が見聞きしていない部分は語れないはずなのですが、大場商会の暗躍とか、雪男捕獲の一部始終とか、部落の様子とか事細かに描写。
回想にした意味がありません。
普通、回想から現実に戻ったら、そこからはリアルタイムな時間軸になるものですが、冬の回想が終わったら、続けて春の回想へ移行して春の回想が終わったらジ・エンド。
つまり冒頭で生きている人(宝田明、メインヒロインの河内桃子、人類学者の中村伸郎ら)は山では死なない(ついでに探しに行った仲間は遺骨になっているので死亡が確定)というネタバレがされており、サスペンスを大いに阻害しています。
新聞記者は話の発端を作る以外の役割もなく「何しに出て来たんだお前?」状態。
❷サブヒロインのキャラが激変
メインヒロインは河内桃子なのですが、この人悲鳴を上げているだけ(スクリーミング・クイーンと言えば聞こえはいいですが、完全にお飾り)。実質ヒロインは辺境部落の娘チカを演じた根岸明美。
この人、冬山で登場した時は、言葉少なに雪崩を予言し、吹雪の中に消えていくという(野性味溢るる目つきも相まって)ちょっと「隠し砦の三悪人」の雪姫を思わせるようなクールビューティーだったのですが、何故か春に再登場した時は宝田にデレッデレな恋する乙女に。
いやこれ絶対違う人だろ?最初のキャラどこ行った?
❸雪男の造形が…
円谷英二的にはこだわりまくった「リアルさの追求」だったようですが、どう言い繕っても着ぐるみの猿なわけで、顔が見えた瞬間、す~と引いていく自分が(トコトコ歩く可愛い子供雪男で駄目押し)。
あと全体的に行動と行動の連鎖がぎこちなくて「いやそういう展開にするんだったら前の展開いらないだろ」な構成の不自然さも多々。正直「ゴジラ」「ラドン」を書いた脚本家とは思えぬ仕上がりでございました。
さて問題の封印。原因は辺境部落の描写に非難されそうな箇所(外界と接触のない村人に障碍者が多く近親婚を匂わせている)があった事による自主的忖度であったようなのですが、う~ん、これが駄目なら「バラン」もアウトじゃね?
あと最近の「なんとか村」とかちょっと前の「エクスクロス」とか全部駄目だろ。
北の山とか南の島とかの秘境ファンタジーは東宝のお家芸じゃないですか。一体に何にビビっていたんでしょうねえ。
で、そんな事より私が気になったのは雪男と河内桃子。
(以下激しくネタバレしています)
仲間をベニテングダケで失い(山の主なのに喰えるキノコの知識とかなかったんかい?)、大場一味にひとり息子(娘かもしれない)を殺され、天涯孤独の身になった雪男は河内桃子を拉致。
まぁキングコングとフェイ・レイみたいな絵を作りたかったのだとは思いますが、つい雪男の真の目的を勘ぐってしまいます。
お前、まさか、河内桃子と子孫繁栄・幸せ家族計画を企てようとしていたのか?(このゴブリン野郎!)
★折角なので毎度お馴染み「封印」三部作も。
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