主演が「白い巨塔」の田宮二郎と「非情のライセンス」の天知茂、ヒロインが女賭博師シリーズの江波杏子で、監督が「必殺シリーズ」の田中徳三。
どんだけハードボイルドなんだよ!と勝手な期待を膨らませたら、出てきたのは関西弁が雑踏の隙間を泳ぐようにすり抜ける“お調子ボイルド”でした。
「宿無し犬」(1964年/田中徳三監督)
一匹狼で喧嘩に強く女にモテモテ(全部自称)なトッポイ兄ちゃん鴨井大介(田宮二郎)。
彼を利用して暴力組織・須賀組の壊滅を目論むしょぼくれ貧乏刑事(天知茂←役名無し)。
舞台が関西という事もあって台詞はどれも丁々発止(脚本:藤本義一)。
ヒロインは江波杏子ですが、作品のカラーを決めている鍵女は賑やかしの坂本スミ子。
「生娘? ウチそんな不潔な女やないで」
ラブ・ホテルの客室係(事情があって副支配人は鴨井)でしたが、不審火でホテルが全焼するや肉体資本・元手無しの商売に鞍替え。
ドヤで代金未納のオヤジをシバいている時に鴨井と再会。
『あら、副支配人!』
『なんやお前パン助になったんか?
(オヤジに)払ったりぃや』
『逆さに振っても鼻血も出んで』
『(間髪入れず鴨井に)逆さに振って』
文字にすると面白くありませんが、間が絶妙。
「犬」シリーズは全部で9本作られていますが、全てに出演しているのは田宮以外では坂本スミ子只1人。
江波が“クール過ぎるにも程があるビューティー”なので、坂本の愛嬌が際立つ1本になってしまいました。
にしても若い頃の天知の劇画顔は何かが滴っているな(どんなに貧乏くさい格好をしていても三枚目にならない)。