『俺は金が欲しい! 見ろ、東京を!
ビルは次から次へ建ち、高速道路は走り、レジャー産業は全盛だ!
しかし、この世の中は誰が支配している? 誰が楽しんでいる?
大企業だ! 昔なら大名だ!
俺たちは何だ?! 百姓、町人さ。
サラリーマンなんて聞こえはいいが、要するに一生うだつの上がらない虫けらさ。
俺はそんな惨めな生き方は嫌だ!
金を握り、事業をやり、大企業と肩を並べたいんだ!』
その野心の終着駅は…。
「黒の超特急」(1964年/増村保造監督)
岡山郊外の田舎町。小さな不動産会社を営む桔梗(田宮二郎)を訪ねてきた謎の男・中江(加東大介)。
銀座で観光開発会社を経営していると言う中江の用向きは土地の買収。
近くこの町に外資の自動車工場が誘致される。それを見越して土地を買い占めたいが、他所者だと警戒されて値を吊り上げられる。地元で顔の利く人間に交渉役を頼みたい。
『馬鹿に細長く買うんですねえ』
『ベルトコンベアーの流れ作業やからな』
数ヶ月後、桔梗は無事買い付けに成功しましたが、その土地に工場は来ませんでした。
そこは新幹線の第二次拡張計画(山陽新幹線)予定地。来たのは夢の超特急。
「まんまと利用された!」と悔しがっても後の祭り。おまけに受け取った手数料はあっという間に株で消滅。
おのれ、中江、ひとりだけ甘い汁吸いやがって。俺にもいい目見させろ。
この正義とは無縁の行動原理が堪りません(笑)。
颯爽と中江の会社に乗り込みますが(当然ながら)けんもほろろ。
くっそー、このまま岡山に帰れるか。色々調べていくうちに、新幹線公団を巻き込んだ疑獄事件の影が…。
野心だけに突き動かされていく田宮二郎がいつもながらいい感じですが、重い台詞回しが景気よく空回りしていてちと意外(すごく演技が下手に見える)。
反面、半端無い達者感を見せつけるのが加東大介。
クロサワ映画だと、ちょっと鈍い(もしくは足りない)奴、というイメージが強いですが、本作の加東大介は目端が利いて抜け目なく、ずる賢くてよく動く小悪党を楽しげに演じています。
もうひとり。政財界の大物・工藤を演じた石黒達也。
ゆすりに来た加東大介に多額の手間賃をふっかけ、秘密を知る女(藤由紀子)が邪魔となるとあっさり「消えてもらおう」と言い、実行犯を加東ひとりに押し付ける有無を言わさぬ威圧感。
増村監督の役者選びの巧さが光っています。
藤由紀子の“最期の”演技も衝撃的。
本作を観た後は是非、「動脈列島」にハシゴしてください。