25歳?! 25歳でこの映画を撮った?!
天賦の才とはこの事か…。
天才の仕事に口を挟むなど天唾の極み。凡人はただ黙って作品を楽しめば良い…とは思いますがそれではレビューにならないので、少しだけ語らいましょう。
「丹下左膳餘話 百萬両の壺」(1935年/山中貞夫監督)
柳生家先祖によって百萬両の隠し場所が塗り込まれた“こけ猿の壺”。
しかし、その壺は江戸の道場屋敷に婿養子に出した弟に婿入り道具として持たせてしまった。何とかして取り戻さねば…。
という百萬両の壺を巡るから騒ぎ。
婿入りした弟(の嫁)は「二束三文の壺」を屑鉄屋にポイ。巡り巡ってこけ猿の壺(と持ち主の少年)はとある矢場(綺麗なお姉さんがいる弓道場、と言うか射的場)へ。
この矢場の居候が丹下左膳(大河内傳次郎)。ヒモです。ゴロゴロしているだけの駄目男です。
矢場の女将・お藤(喜代三)とのハイスパートな掛け合い。お互い嫌だ嫌だと駄々を捏ねるくせに次のカットでは相手の言う事をきいている省略の妙(元祖ツンデレ?)。
上質な古典落語の人情噺を聞いているかのような心地良い間合い。
そして左膳の殺陣。まるでトペ・スイシーダのように相手の懐に飛び込み斬る。何と言う踏み込み、何と言う躍動感。こんな殺陣、観た事ありません。
出回っている廉価版ソフトは本作のパブリック・ドメイン化に便乗した粗悪品ですが、日活版はプリント状態が良好なだけでなく、GHQによってカットされてしまった幻の殺陣シーンが収録されています。
ここだけ映像がささくれ立って無音な為、殺気と凄みが5割増し。
この殺気と対局にいるのがもうひとりの主人公、柳生源三郎(沢村国太郎←加東大介の兄、津川雅彦・長門裕之の父)。
道場屋敷に婿入りしたぼんぼん。ヒモです。ゴロゴロしているだけの駄目男です。
壺を探すふりをして矢場通い。息の詰まる道場を一歩出るや、背筋シャッキリ、競歩の如き溌剌さで女の元にゴーアヘッド。日本一のラテン系。
本作の何が素晴らしいって、左膳も源三郎も「百萬両、百萬両」と口走るくせに、実の所、そんな分不相応な金なんかどーでもいい、と思っている所。
そんなことより勝手気ままな暮らしが大事。自由が一番。
言葉としては粋、軽妙洒脱、反骨精神なんて単語が浮かびますが、まるで作品に追いつきません(書いていて虚しいと感じたのは初めてだ)。
山中貞夫、28歳で戦病死。監督作品23本。現存するフィルム、僅か3本。