『163.07MH、スピード・ゼロの信号電波。新幹線、拾ってくれ! 停まってくれ!』
名神高速を新幹線と併走しながら時速150km以上で激走(勿論無許可)、一般車両をジグザグに追い越しながらスピード・ゼロの信号電波を発信するセリカ。
このシーンだけで語り継がれる資格があります。
「動脈列島」(1975年/増村保造監督)
東京オリンピックまでに何としても完成させねばならなかった新幹線。
突貫に次ぐ突貫工事に“環境問題”など考慮する余裕は無く、騒音公害という深刻な副作用が近隣住民に襲い掛かっていました。
新幹線が通る度にB29の幻影に怯え、狂乱のうちに息を引き取った老婆。看取った青年研修医・秋山(近藤正臣)は義憤から国鉄と対峙する決意を固めます。
騒音公害問題解決の手段を講じない場合は、10日後に新幹線を破壊する・・。
新幹線運行システムの裏を突いて捜査陣を翻弄する秋山。国鉄技術者の口から語られる安全最優先故の弱点。
『銅線一本、空き缶3個、濡れ雑巾3枚でも新幹線を停める事ができます』
迎え撃つは、警視庁きっての切れ者、犯罪科学捜査官・滝川(田宮二郎)。
僅かな証拠とプロファイリングから、容疑者を秋山と特定しますが、秋山はやすやすと包囲網を突破。スピード・ゼロの信号電波で新幹線を停止させ、大胆不敵にも国鉄総裁の自宅を訪問。
『総裁、あなた100ホーンの騒音の中で生活したことがありますか? お聞かせしましょう。私の患者はこの音で死にました』
知能の限りを絞った計画の最後が、遠隔操作によるブルドーザーの体当たりというウルトラ大味攻撃なのが玉に瑕ですが、実際にフェンスぎりぎりをブルドーザーが動いている(万が一、不測の事態が起きれば、本当に列車が転覆する可能性が無いとは言えない)というデンジャラスさが増村監督らしいじゃないですか。
同時期に公開された「新幹線大爆破」同様、国鉄の撮影協力が一切得られなかったためのゲリラ撮影が緊迫感を醸造していた(と思っていた)わけですが、今回、DVD封入のライナーノーツに衝撃の事実発見。
なんと、本作、動労(国鉄動力車労働組合)が“極秘裏に”撮影響力していたそうです。
確かに、保線区に引き込まれた新幹線(トイレから偽装爆弾を発見するシーン)とか、運転席からの車窓とか、内部の協力無しには撮影不能なカットがいくつかあります。
1950年の結成当初は穏健な職能組合だったそうですが、60~70年代には活動が先鋭特化し、「泣く子も黙る鬼の動労」と言われた機関士の組合。そのメンバーが騒音公害を告発する映画に影で協力していたとは。
僅か2本で終わってしまった新幹線社会派サスペンス。もう1本くらい観てみたいものです。
※追記:「黒の超特急」という名作がありました。失礼。