「今年は…来るだかな?」
「やんしゅは来た。これで鰊さ来ねば…」
「鰊網は大博打だでな。来ねば首くくるだ…」
浜に仁王立ちして水平線を睨む老人。睨むは気配。時化の気配。鰊の気配。
「ジャコ萬と鉄」(1964年/深作欣二監督)
昭和21年3月。北海道カムイ岬。
秋田から、津軽から、山から、畑から、出稼漁夫(やんしゅ)の群が。
向かうは樺太帰りの九兵衛一家の魚場。狙うは鰊。その中に招かれざる客ひとり。
隻眼のマタギ、ジャコ萬(丹波哲郎)。目的は樺太で自身の密漁船を九兵衛(山形勲)に奪われた怨みを晴らすこと。
そこに南方で戦死したと思われていた九兵衛の息子、鉄(高倉健)が。
船乗りとマタギ。九兵衛を挟んで対峙する二人。
鉄が宴会で披露する“南洋の土人から教わった唄(と踊り)”が絶品。盛り上がったところに“ソーラン節”を挟む辺り、アレンジも中々。
九兵衛はこすっからい奴だが決して悪人ではない、という立ち位置が良い。
ジャコ萬と鉄の物語ではありますが、あくまで主役は鰊魚場、そして漁師。
最後に支払われる給金が凄い。正に札束。それが壁のように積み上げられ、ひとりひとりに渡される。受け取るやんしゅ達の満面の笑顔。「勝ったのは漁師だ」って感じ。
オリジナルは1949年の「ジャコ万と鉄」(谷口千吉監督)。谷口監督と黒澤明による共同脚本をそのまま使用しているようです。
残念ながらオリジナルは未見。シナリオ流用に関して「そんなリメイクに何の意味がある?」という批判もあるようですが、高倉&丹波という“居るだけで絵になる二人”を前面に出して、背景を名も無い漁師の大群で埋める(そして背景こそが主役)という構図は“深作映画”そのものじゃないですか。
借り物の脚本であっても圧倒的なパワーで押し切る手管。見応えのある1本です。