昨日の「高慢と偏見とゾンビ」繋がりで。
文芸ゾンビのオリジンと言えるかもしれません。
「私はゾンビと歩いた!」
(1943年/ジャック・ターナー監督)
この『東スポかよ!?』なタイトル(原題もI WALKED WITH A ZOMBIE)で敬遠されている方も多いのではないかと思います。
実際、企画のインスパイア元は当時のパルプ・フィクション「アメリカン・ウィークリー」に掲載されていた「ハイチのゾンビは実は薬漬けにされた奴隷だった」という三文記事なので、あながち間違った感覚ではないのですが…。
カリブ海に浮かぶセント・セバスチャン島の砂糖農園に雇われた看護婦ベッツィー(フランシス・ディー)。
雇い主は農園主ポール(トム・コンウェイ)。介護対象はその妻ジェシカ(クリスティン・ゴードン)。
ジェシカは熱病を患って以来、言語も思考も失った“生ける屍”になっていました。
島を包むように流れるブードゥーの太鼓のリズム。
本作には2回、異世界への移動描写があります。
まず、雪の降り積もるカナダから南国への船による移動。そして、ジェシカの手を引いたベッツィーがサトウキビ畑を抜けてブードゥーの集会場所へ向かう移動。
道しるべか結界か。幾つものサインを超えて異教徒のつどう儀式の場へ。
少しずつ近づいてくるこの世ならざる世界。その度に迎えるのは音楽。農場主一家の内幕を告げる唄(農園主の弟が兄嫁に横恋慕して悲劇が起きた)、ブードゥーの集会に流れる喧騒と太鼓。
RKOが指定した元ネタもタイトルも気に入らなかった監督は、お話のベースにシャーロット・ブロンデの「ジェーン・エア」を持ってきます。
「高慢と偏見とゾンビ」に先んじること73年。文芸ゾンビの嚆矢です。
ロメロ以降のモダン・ゾンビが登場するわけではないので、グロシーンなどなく、雰囲気系サスペンス・ホラーという趣き。
光と影、静寂と喧騒を巧みに使い分けて盛り上げて行く手管の素晴らしさ。