『見たのね、彼女を。彼女を見ると、その場所がどこであろうと、そして一瞬であっても、必ずその人の周辺にある事が起きるの』
『ある事?』
『事故や病気を問わず、子供が死んでしまうの』
20世紀の到来を目前に控えたロンドン。
若き弁護士アーサー・キップス(「ハリー・ポッター」のダニエル・ラドクリフ)は、息子の出産と引き換えに妻を失い、仕事進まず、成績上がらず、あれこれ滞納している上に事務所からは戦力外通知で心も財布も待った無し。
最後のチャンスであてがわれた仕事が、とある自殺婦人の遺書探し。
田舎町クライシン・ギフォードの霧深い沼地に浮かぶ島の中に建っているイールマーシュの館、ドラブロウ邸。
その邸内にある全ての文書に目を通し、子供部屋で首を吊って死んだアリス・ドラブロウ夫人の遺言書を見つけ出せ。
『君がこの機会をものにし、自分の雇用価値を私に証明してくれることを願う』
アーサーは幼い息子をロンドンに残し、列車を乗り継ぎギフォードへ。
そこで待っていたのは怨霊と化したドラブロウ夫人でした。
「ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館」(2022年/ジェームズ・ワトキンス監督)
ギフォートは拒絶の塊。弁護士は非協力的。宿は満室。住人からは怨嗟の視線。
理由は簡単。
ドラブロウ婦人を刺激すると子供を奪われてしまうから。
実の姉に精神障害認定され、息子の親権を剥奪された挙句、(事故とは言え)命まで奪われ、失意のうちに関係者のみならず世界まで恨んで命を絶ったドラブロウ婦人の呪怨は今も村を支配しておりました。
お話自体は超オーソドックス。ゴシック・ホラーの枠組みに「ラ・ヨローナ」を嵌め込んで「リング」で味付けした感じです。
効果音ドッシャーン!でわぁびっくらこいた的演出がやや多めなのが気になりますが、英国らしい(なんたって製作ハマーフィルム!)ゴースト・ストーリーでした。
これが噂のイールマーシュの館、ドラブロウ邸。
本作、目を引く小ネタやら小物やらが多いので(メインストーリーは横に置いておいて)今回はそっち中心に並べてみます。
列車の中でアーサーが読んでいる新聞の記事。「コナン・ドイルも認めた霊界とのコンタクト」
当時の英国は心霊主義が花盛り。ドイルも心霊主義に傾倒していたのは有名な話ですが、彼が心霊現象研究協会に正式入会したのは1893年11月。お話の時代設定はその前後だと思われます。
アーサーという役名もドイルからの拝借かもしれません。
話が横っ飛びしますが、チャレンジャー教授が死後の世界の存在を確信する「霧の国」の着想をドイルがいかにして得たか、を描いた山田正紀の短編SF「霧の国」は傑作です。
ドラブロウ邸に着いたアーサーが窓を開けて光を入れると、そこにはやたら見覚えのある小物が。
こ、これは《見ざる聞かざる言わざる》!英国にもあったのか!?
英語表現だと《See no evil, hear no evil, speak no evil》になるらしいので、それっぽい感じはしますが。
IMDbのTriviaには「その起源(とそれに付随するフレーズ)には異論もあるが、一般的には、日本(特に仏教)の「悪を広めないための金科玉条」の一部であると考えられている(Although their origins (and the phrase accompanying them) are disputed, it is generally believed that they are part of a Japanese (particularly Buddhist) "Golden Rule" to avoid spreading evil.)」と書いてありますが、三猿の起源って古代エジプトあたりじゃなかったっけ?
こちらはドラブロウ婦人の怨霊に奪われた子供のひとりの霊廟。
左右の天使が何かぐったりしています。
いや勿論徹夜明けで疲れているのではなく、子供の死を嘆いているんだとは思いますが、金剛力士像のような守り神的イメージがあるので、このぐったり感はちょっと意外。
アーサーが館の窓辺に立つと遠くに黒衣の女の人影が。
「回転」オマージュな1カットですが、やはり最初に思い出すのはブラック・サバスの1stアルバム「黒い安息日」のジャケットですね。
そして、ドラブロウ婦人に魅入られて自らに火をつける少女は「エクソシスト2」OPの祈祷師とクライマックス前のシャロン(キティ・ウィン)と被ります。
他にも色々あると思うので、探してみるのも一興かと。
★ご参考。似ている気がしなくもない…
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★本日11月23日は総合格闘家ドン・フライ(1965~)の誕生日(おめでとうございます!)。
ちょこちょこ映画にも顔を出しておりますが、今回は地球防衛軍・轟天号艦長/ダグラス・ゴードン大佐を演じたこちらを。
あと、(レビューでも触れていない)チョイ役ですがこんなのにも出ていました。