膝が、がくがくと震えた。
なんだ、これは。
震えているのか。
このおれが。
ああ
なんという歓喜。
左足を雪に突いて、右足をあげ、その右足が降りてゆく。
そして
おれは、地球を踏んだ。
夢枕獏は文体で読ませる作家だ(と思う)。短いセンテンスを小気味よく連ねて、リズムを作る。
そして現れるのは「過剰なセンチメンタリズム」。
構想20年。書き始めてから書き終わるまで足掛け4年。ハードカヴァー上下巻約950頁。原稿用紙にして1,700枚に及ぶ山岳冒険小説。
山に魅せられた男たちの「想い」がひたすらうねる獏節大作。こんなものを映像に転写する事が出来るのか(しかも94分という尺の中に)、という思いから、鑑賞の腰が引けていたのですが、観て正解。これは凄い。
過剰なセンチメンタリズムを一旦解体・再構築。削って掃って。
残ったのは骨の軋むようなハードボイルドでした。
「神々の山嶺」(2021年/パトリック・インバート監督)
ネパールの首都カトマンドゥ。
山岳カメラマンの深町誠はここで二つの物を目撃します。
ひとつはエヴェレスト踏破の歴史を変える映像が収められているかもしれないコダックのカメラ「BEST POCKET AUTOGRAPHIC KODAK SPECIAL」。
そしてもうひとつは消息不明の天才クライマー、羽生丈二。
日本に戻った深町は羽生の辿った経歴を調べ、聞き込み、魅せられ、再度ネパールへ。
羽生が生涯を賭けてやろうとしていることを、挑戦の全てを見届けるために。
日本の(それもちょっと昔の)描写に違和感が全くありません。凄いぞフランス人。
吹き替えは羽生が大塚明夫で、深町が堀内賢雄。半端ない嵌り具合。
そして主役である山。その描写が圧巻。勇壮。
カメラにまつわるミステリー部分は枝葉を全て落として骨格のみとなりましたが、多分正解。
厳密には夢枕獏の小説を漫画にした谷口ジロー版を原作と呼ぶべきなのですが、恥ずかしながら未読。今度読んでみたいと思います。
日本の実写版は…まぁいいか。
おまけ
フランス人の日本アニメに対するリスペクトなのか。居酒屋に居合わせた巨匠2名。
★ご参考
★本日2月6日は「抹茶の日」。
「風炉(ふろ。釜を掛けて湯を沸かす道具)」の語呂合わせで、愛知県西尾市茶業振興協議会が制定。
今日は茶道の本家本元を描いたこちらと、
突然抹茶が出てきて驚いたこちらをどうぞ。