『愛? そんなものは存在しない。あるのは欲求だけだ! 力への意思だけだ! 人の人生を弄ぶのだ!』
究極の愉快犯登場です。
「ドクトル・マブゼ」(1921~22年/フリッツ・ラング監督)
精神科医にして賭博師、偽札を作り相場を動かし、催眠術で人を思う様に操る神出鬼没の大悪党、それがドクトル・マブゼです。
ドイツ/スイス間の経済協定書を盗み出し、株価操作をするというスケールのデカさに驚きましたが、2幕目移行は小粒なエピソードが続きます。
動機が、人妻を篭絡せんがために夫を破滅させるというような「あまりに人間的な」ものだったり、クライマックスが西部警察ばりの篭城銃撃戦という「頭脳戦」とかけ離れた展開だったりするのがちと残念。
ただ、マブゼのキャラが立ちまくっているので、なんとも魅力的な犯罪活劇になってはいます。
※「力への意思」という言葉からも分かる通り、マブゼにはニーチェの超人思想がみてとれます。邪悪なツァラトゥストラといった所でしょうか。
第1部「大賭博師・時代の肖像」全6幕155分。
第2部「地獄・現代人のゲーム」全6幕115分。
合計4時間30分!
さすがにモノクロ・サイレントで4時間半はちょっとキツいですが、逆に言えば「ちょっとキツい」程度で4時間半を乗り切れるという事です。これは凄いことですよ。
マブゼのキャラは絶対、黒沢清の「CURE」に影響を与えていると思います。
※参考:「CURE」→2008年8月27日