『もう逃げない。ここに残って戦うぞ。ここが我々のホームだ!』
今まで観た中で一番泣いた映画かもしれません。
「民衆の敵」(1978年/ジョージ・シェーファー監督)
製作された時から毎年ヘラルドの公開ラインナップに名を連ねるも公開の気配無し。
理由は簡単。話が地味で暗い(観客動員が見込めない)から。
ノルウェーの赤ひげ医師(スティーブ・マックイーン)が、町の上流にある工場から排出される廃液によって河が汚染されている事を警告するが、工場側の巧みな煽動によって民衆の敵(An Enemy Of The People)に祭り上げられてしまう・・。
これはもう“マックイーン追悼”というキャッチがないと(公開は)無理だべ、と判断したヘラルドはじっと待ちました。マックィーンが癌で死ぬのを。
1980年11月7日、マックイーン永眠。
が、しかし! ヘラルドに公開の機運無し。おいおい、待ってたんだろ、死ぬの。公開しろよ。
更に待つこと2年。私の手元に一通の試写状が。
82年10月21日千代田公会堂。
マックイーンのイメージと言えば“逃げる”の一言に尽きます。「大脱走」「パピヨン」「ゲッタウェイ」・・・不屈の精神で逃げて逃げて逃げまくる。
ところがスクリーンにいるのは鬚モジャで人相も分からず、アクションも封印したマックイーン。そして冒頭の台詞。
そうか、マックイーンは性格俳優になろうとしたんだ。アクション俳優というレッテルを剥がそうとしたんだ。もう逃げないという力強い宣言。嗚呼でも彼はもうこの世には・・。
と考えたらもういけません。とめどなく号泣(まだ若かったからね。終了後トイレで用足ししている間も思い出し泣きしていました)。
本作の製作総指揮はマックイーン自身。気合の入り方が分かろうというものです。
結局、公開されたのは翌83年3月(しかも単館)。寝かすこと5年! 未だソフト化されず・・。哀しいなあ。