DVD鑑賞なので劇場の様子は分かりませんが、もし「キック・アス」を期待した客が多数いたとしたら、潮干狩りが出来るくらい音を立てて引いたのではないでしょうか。
手製コスチュームに身を包み、町の小悪党を退治する中年男と、押しかけ相棒志願のオタク女。
ポスター・デザインもモロ「キック・アス」二番煎じ風。
よもやこんな洒落にならない展開を見せようとは…。
「SUPER」(2010年/ジェームズ・ガン監督)
フランク(レイン・ウィルソン)は、人生の輝かしい瞬間が2回しかない負け犬街道全力疾走の中年ブ男。
2回のうちのひとつは、泥棒の逃げ先を警官に教えたこと(あっちに逃げたぞ)。
そしてもうひとつは不釣合いな美女サラ(リヴ・タイラー)と結婚できたこと。
しかし、薬物中毒更生中だった妻は、フランクを捨ててセクシーなドラッグ・ディーラー、ジョック(ケヴィン・ベーコン)の元へ。
泣き暮らすフランクでしたが、テレビのキリスト教布教番組のヒーロー、ホーリー・アベンジャーの啓示によって、正義のヒーロー、クリムゾン・ボルトに大変身!(この時点でかなりアブナイ)。
手製のコスチュームを作り、まずは小手調べとばかりに町のチンピラを退治。武器は配管レンチ(上背のあるコスプレ男がレンチを振り下ろす様は爽快を突き抜けて恐怖)。
ここにコミック・ショップのオタク店員リビー(エレン・ペイジ)が、相棒ボルティーとして押しかけ参戦。
本作のキモは間違いなく “イカレサイコオタク”という新境地を開拓したエレン・ペイジ(ちょっと「ショック・トリートメント」のジェシカ・ハーパーっぽい)。
と、ここまでは、ヒーローを青年から中年にするだけで、話はここまで痛くなる、という苦い笑いを狙ったもの、と思っていました(実際、その痛さたるや「ゴースト・ワールド」の比ではありません)。
が、しかし。
中盤から終盤にかけての展開は「タクシー・ドライバー」×「ヒストリー・オブ・バイオレンス」。
クリムゾン・ボルトにはトラビス・ビックルが、監督には“暴力を加えられた人間はどのように変形するか”を正確に描写するクローネンバーグ魂が宿っています。
本作を観て怒る人もいるでしょう。「やりすぎだ」と。確かにやりすぎかもしれません。ただ観終わった後に思い起こすと何か宝物みたいに思えてくるシーンが一杯あるんですよ。
「悪に立ち向かう心が人をヒーローにする」、「コマとコマの間で起きている事なのね」、そして壁一杯に張り出された“人生最高の瞬間”…。
何故かラストで「アバウト・シュミット」を思い出してしまいました。
笑って、ビビって、引いて、しんみり…やはりこの監督、一筋縄ではいきません。
※参考:「ヒストリー・オブ・バイオレンス」→2008年5月11日
「ゴースト・ワールド」→2008年7月23日
「ショック・トリートメント」→2011年4月18日
「アバウト・シュミット」→2011年6月26日
「キック・アス」→2011年9月5日