
離婚×解雇×余命宣告。
ロイヤル・ストレート・フラッシュな貧乏クジを引き当てた男が自殺…しようとしたものの身の回りの不合理・不条理・非常識に怒り爆発。
どうせ死ぬのなら、その前にこいつら全部殺してやる。
あまりにも正し過ぎる決断。問題はこの極上の素材の調理方法と盛り付けでしたが…。
「ゴッド・ブレス・アメリカ」(2011年/ボブキャット・ゴールドスウェイト監督)
フランク(ジョエル・マーレイ←ビル・マーレイの弟)は離婚して一人暮らし。
元女房は別の男と再婚予定。ひとり娘は休日の面会拒絶。会社に行けば受付のデブおばさんに示した好意がセクハラと看做されて即日解雇。病院に行けば脳腫瘍で余命宣告。
終わった…何もかも。
ガバメント口に咥えてアディオス人生…って、ちょっと待て。目の前のテレビに映っているクロエとかいう女、こりゃ一体何だ?
セレブのドキュメント? 全身全霊ワガママ娘がスター気取りで喚き散らしているだけじゃないか。あーむかつく。死ぬのはこの馬鹿女殺してからにしよう。
翌日、フランクは躊躇いもなくクロエを瞬殺。世の中すべてに絶望していた女子高生ロキシー(タラ・リン・バー)は偶然これを目撃して狂喜乱舞。
落ち着いて自殺しようとしていたフランクの元に押しかけてきたロキシーは、“このままではクロエに横恋慕した中年の自殺と報道されてしまう”、“自殺するのは間違った人を殺すのと同じ”と強く主張。
心を動かされたフランクはロキシーを相棒に、気に入らない奴らを一掃する世直し旅へ出発。地獄の水戸黄門漫遊記の始まりです。
…という設定は百点満点…なのですが、どうも展開がヌルくてタルくて深みがありません。
マナー違反をしている人間に鉄槌を振り下ろす辺りは「シリアル・ママ」を、中年男と押しかけ少女のヒロイズムという意味では「SUPER!」を想起させますが、あそこにあったようなはっちゃけた感じが全く感じられないのです。
勿論、その遥か後方には「俺たちに明日はない」「タクシードライバー」「レオン」などがあり、それらしいリスペクトもされているのですが、こちらにあった“横滑りしていく情熱”とか“互いを想う切なさ”みたいなものも本作からは感じ取れませんでした。
計算のし過ぎで着地点が分からなくなっちゃったって感じでしょうか。
もう少し作品のカラーを鮮明にすれば大傑作に化けた可能性大なだけに、泣かすでも笑わせるでもしんみりさせるでも考えさせるでもない中途半端さが残念無念。
※参考:「キャスリーン・ターナーが刺す轢く殴る。シリアル・ママ」
→2009年5月25日
「いつも心にトラビスを(&エレン・ペイジ万歳)。SUPER!」
→2012年2月4日