綿密なプロファイリング(と言うかストーキング)によってターゲットの行動パターンを読み、幾重にも錯綜した罠を仕掛け、最終的には事故死に見せかけて殺す…。
その冷徹な仕事ぶりから“メカニック”と呼ばれる1匹狼の殺し屋ビショップ(チャールズ・ブロンソン)。
一匹狼に相棒は不要…だったはずですが…。
「メカニック」(1972年/マイケル・ウィナー監督)
マイケル・ウィナーと言えば、兎に角“大味”“大雑把”“漫画”という印象が強いのですが、本作に関しては良い意味で“簡潔”。
冒頭、一切の台詞を廃して描かれる観察→計画→仕掛け→実行のプロセス。
お、何だマイケル、ハードボイルドじゃねぇか。
依頼人である組織の全貌、標的の素性、暗殺の理由、仕掛けの意味、全てが説明不要、無言の行。
ただ、送られてくる指令を淡々とこなすビショップ。
たとえ相手が、父の友人であっても仕事は仕事。段取り通りにお見送り。
このターゲットの放蕩息子スティーブ(ジャン=マイケル・ビンセント)にメカニックの素質を見出したビショップは、彼を相棒兼跡継ぎとして殺しのテクニックを伝授することに…。
アホタレな脚本家なら、ビショップの女とスティーブがデキちゃって…ってな展開にする所でしょうが、きっぱりさっぱり話に女が絡みません。
ブロンソンとセット販売のジル・アイアランドは当然顔を出しますが、ビショップの一面を表現するための背景的小道具扱い。
むしろビショップの目にはスティーブしか映っていなかったのではないかとすら思えますが、そこいらへんの心理描写も監督がまるっと割愛してしまったので真相は闇の中。
ハードボイルドと言うよりは単に説明不足なだけという気もいたしますが、準備と仕掛けの合間に挿入される小気味良いアクションがいい感じにリズムを作っていて飽きません。
個人的に瞠目したのは、追っ手の車をビショップがブルドーザーで押し返し、強引に崖から転落させてしまうところ。
普通なら適当なタイミングで火が出て大爆発、炎に包まれて崖下へ、となる定番シーンですが、本作は一味違います。
ただ、墜ちて行く様を追っていくだけ。車はあっちにぶつかりこっちにぶつかりする内に、まるで紙細工のように折れ、曲がり、ねじれ、ひしゃげ、原型を留めない鉄の塊に…。
落下のパワーをここまで正直に表したシーンはなかなか無いのではないかと思います。
これでジャン=マイケル・ビンセントの演技がもうちっと巧ければ言うこと無しだったのですが(まだ、水曜日の大波に乗るまで5年掛かります)。
この70年代の温気を背負った佳作をヒゲ無しハゲ親父でリメイク…どうなっているのでしょう(不安だ)。