「おまえさんの言おうとしていることが、だいたい理解できました。『あしゅら湯は何処か』と,こう言いたいのじゃな?」
シュールな展開はうる星の(いや押井の)お家芸ですが、本作もその系譜に連なる傑作の1本。
「うる星やつら/第53回76話・決死の亜空間アルバイト」(1982年12月15日放送/早川啓二演出)
銭湯の三助という求人に喜び勇んで応募するあたる。しかし、その銭湯・あしゅら湯は“亜空間AXY木戸”を抜けた異世界にありました。
あたるはこの古い日本家屋が連なる亜空間の町であしゅら湯を探して彷徨うのですが、ここの描写がまるごとつげ義春。
童女のように遊ぶ老女。メンコやローセキを売っている駄菓子屋(この辺りは「ゲンセンカン主人」)。
そして、猫や狐のお面を被った子供、冒頭に掲げた駄菓子屋主人との会話、もと居た所に戻ってきてしまう路面電車などはまんま「ねじ式」。
「ねじ式」1頁目で飛んでいる飛行機の機影まで映し込む念の入れようです。
ようやく目的地についたものの、仕事場は男湯。しかも客はどこが背中でどこが腹なのかも分からない宇宙生物。
この“異世界に存在する銭湯で異形の者たちを相手に働く”というシチュエーションが、「千と千尋の神隠し」の原型になっている、というのが通説になっていますが、どうなんでしょ。
個人的には、男湯と女湯が湯底で繋がっており、風呂の底には軍艦が犇くほどの空間が広がっている、というビジュアルに圧倒されました。
ラストも女湯の底に沈むあたるの上から“通りゃんせ”を歌う子供達が輪になって降りてくる、というダメ押しシュール。
「若さゆえ 銭の重みに 浮かばれず 湯船の底で 流す瀬(背)もなし」
原作を破壊する事無く、別次元に押し上げた良作の1本だと思います。