根津甚八さんの追悼記事ではさらっと触れただけだったので、この機会に再見(1982年7月にシネマスクエアとうきゅうで観て以来)。
根津さん、やっぱり凄いです。
工業化の進む茨城県鹿島地方。山沢幸雄(根津甚八)は農家の長男坊。米作では喰って行けない、両親とは折り合いが悪く、身重の女房も鬱陶しい。
家を継ぐと言いながら仕事はダンプの砂運搬。ただでさえテンパっているところに不慮の水難事故で息子二人が死亡。
葬儀の後、母親が自分より可愛がっていた次男坊、明彦(矢吹二朗)が東京からリターン・トゥ・ホーム。そして景気は下降線。
このお経・帰郷・不況の3凶が幸雄の精神を蝕み、遂には不安と強迫観念から逃れるため覚醒剤に溺れ…。
蟹江さんも良い味出しています。
美しい田園風景とコンビナート、廃れ行く農業と壊れ行く幸雄。
幸雄は元々性格に難有りな問題児(それ故、母親は幸雄よりも出来の良い次男・明彦の方を溺愛した)。溜めに溜めた鬱屈。精神の自己破産。
農業の実態を描いた、という意味で、前年に公開された「遠雷」と比較されることがありますがテイストは真逆。幸雄のキャラは永島敏行ではなくむしろジョニー大倉。
今観ると「遠雷」よりも三池監督による「新・仁義の墓場」の岸谷五朗と被るところが大きいです。
周りがさんざん世話を焼いてやっているのに、『あんたら冷てぇんだよ! あんたらが俺に何してくれたっつうんだよ!』と切れまくった挙句にシャブに溺れて親分まで手にかけてしまう厄ネタ岸谷は幸雄の合わせ鏡のよう。
こういう時、必ずセットで堕ちていく薄幸女(「新・仁義の墓場」では有森也美)は秋吉久美子。
この“誰もいない浜辺で豪遊”シーンの索漠感と言ったら…。
彼女が調子っ外れに歌う中島みゆきの「ひとり上手」にはちょっと泣きそうになりました。
短気短絡で暴力的な幸雄は駄目人間の見本ですが、不思議と嫌悪感はありませんでした。根津さんの演技とキャラ作りの賜物でしょうか。
改めてご冥福をお祈りいたします。