米国の緊急コマンドシステムをスチャラカにしてしまう(ハッキングして好き勝手にICBM弾を打ち上げてしまう)「スペクターかよ!?」なソフトを開発してしまった天才ハッカー、ダッチマン。
指1本で第3次世界大戦を引き起こせる発明と、それを交渉の道具ではなくいきなり実行しそうなスポンサー、ハビエルの狂気にビビったダッチマンはCIAに身柄保護を要求。
CIAロンドン支局のエージェント、ビル・ポープ(ライアン・レイノルズ)は極秘裏にダッチマンを匿うことに成功しましたが、ダッチマンを追うハビエルに拉致られ拷問死。
ダッチマンの居場所を知るのはビルの脳に残された記憶のみ。
ビルの脳が完全に死んでしまったら何もかもが手遅れ。
CIAがとった手段はマウスでしか成功していない記憶の移植手術。
ビルの記憶を他人に移植。ただし、そのためには記憶を受け入れる「空き容量」のある脳でないと。
条件に合致するのは、幼少期に父親のDVで脳の一部が損壊し、その結果、善悪の区別すらつかなくなった社会生活不適合のサイコパス、ジェリコ(ケヴィン・コスナー)。
最悪オブ最悪ズな被検体でした。
「クリミナル/2人の記憶を持つ男」
(2016年/アリエル・ヴロメン監督)
洗剤みたいな名前の監督は「THE ICEMAN 氷の処刑人」撮った人ですね。
ICEMANも父親の虐待が原因で色々と面倒くさい性格になっちゃた人のお話でした。
お話戻ってクリミナル。鎖で繋がれた凶悪犯罪者ジェリコに選択権などあろうはずもなく、麻酔弾で眠らされている間に手術完了。
執刀医はこの研究の責任者フランクス(トミー・リー・ジョーンズ)。
施術は成功しましたが、簡単にビルの記憶が蘇ることもなく、CIAロンドン支局長ウェイカー(ゲイリー・オールドマン)は激怒り。
『何年この研究やってんだ!?』
How long have you been worked on this?
『18年』18 years.
『研究費返せ!』We want a refund!
こんな役立たずとっとと返品しろ!とリターン・トゥ刑務所となったジェリコですが、当然逃走。運転手も護衛も(ついでに巻き込まれた一般人も)屠って護送車丸焼き。
足の向くまま気の向くままに盗難・暴行・無銭飲食・暴行を繰り返すジェリコの脳裏に突如ビルの記憶がフラッシュバック。
妻、娘、自宅、海岸…
何なんだ、これは!?
野獣同然の人格だったジェリコがビルの記憶に干渉されて、更にビルの妻や娘と会うことによって「感情」を知るようになる、その過程をケヴィン・コスナーが繊細に演じています。
何となく雰囲気が「フェイス/オフ」のニコラス・ケイジと被るなぁと思ったら、当初この役、ニコラスが演る予定だったようです。
本作シナリオの白眉な設定は、移植した記憶が時間と共に失われてしまうこと。
CIAにとってはダッチマン確保の手がかりの喪失に繋がりますが、ジェリコにとっては初めて知った愛情を手放すことであり、ビルにとっては再び家族を失うということ。
『娘…娘の名前が思い出せない!』
芸達者な面子が揃っているので、腰の据わった安定感のある作りになっていますが、エンタメとしての勢いがちと弱い(途中休憩1回)。
故トニー・スコット辺りがメガホン取っていれば、一気呵成なエンターテインメントに仕上がっていたのではないかと思います。
にしても、もうミサイル基地占拠とかしなくても打ち上げ可能な時代なんですねぇ。
「合衆国最後の日」は遠くなりにけり。
★ご参考:洗剤監督の前作は…
★なんとなく展開に親和性のある…
★かつてはミサイルを発射しようと思ったら…
★本日6月16日はビルモス・ジグモンド撮影監督(1930~2016)の誕生日。
ビルモス→ヴィルモス、ジグモンド→スィグモンドと表記の変遷がありますが、やはりビルモス・ジグモンドがしっくりきます。
※類語にスタンリー・カブリック→クーブリック→キューブリックというのがありますが、こちらは逆にキューブリックが自然体。
ジグモンド先生と言えばしつこく「天国の門」を推したいところですが、今回は涙を呑んで(?)取り上げることの少ないこの2作、そしてお亡くなりになった時の追悼記事を。