何故、この作品が蛇蝎の如く忌み嫌われるのでしょう。
そりゃ確かに1,100万ドルの予算が4,400万ドルに膨らんだ挙句、興行収入350万ドル足らずでユナイトは倒産しましたよ。
でも、それがどうしたと言うのですか!?
完成したセット(※)の道幅が狭いと言って作り直し、一瞬しか写らない蒸気機関車のためにレールを敷き、雲の形が気に入らないからと撮影延期させ(その間洒落にならない数のエキストラを待機させ)てりゃ、制作費なんかあっと言う間になくなりますよ。
※セットったってスタジオ・セットじゃないですからね。街のオープン・セットっすよ。
その“こだわり”の全てを堪能しようじゃないですか。
(1980年/マイケル・チミノ監督)
本作くらいBlu-ray化を待ちわびた作品はありません。
冒頭延々20分以上をかけて描写される1870年のハーバード大学卒業式典。
どこが大学生じゃ!?なアーヴァイン(ジョン・ハート)とエイブリル(クリス・クリストファーソン)。
人もカメラも全力疾走するワルツ。静から動への対比。陽が落ちても終わらない(終わりたくない)青春という宴。
そして20年。以前も書きましたがこの時間を一跨ぎに繋いだ編集の素晴らしさ。デヴィッド・マンスフィールドの音楽に依るところ大ですが、何度観ても鳥肌が立ちます。
ワイオミング。大枚はたいて荒地を買ったロシア・東欧系移民たち。
彼らは生きるために繰り返し牛泥棒を。業を煮やした牧場主たちは、牛泥棒根絶の名のもとに125人の処刑リストを作成。移民皆殺し計画を実行に移します(ジョンソン郡戦争)。
保安官となったエイブリルと小規模牧場主となったアーヴァインはこの町で再会。守る者と殺す者。20年の時が隔てた二人の居場所。
(憶えているか?あの過ぎ去った良き日々を)
「Clearer And Better Everyday I Get Older」
(歳を取るごとに鮮明になっていくよ)
ビルモス・ジグモンドの映像はほとんど奇蹟。息を呑むとは正にこの事。動く絵画。呼吸するミレー。
只でさえ埃っぽい中をアウトフォーカス気味に撮っているので、VHSではボッケボケ、DVDでも甘さの目立つ画調でしたが、Blu-rayでようやく本来の姿に戻りました(かなりゲインが立っていますが、本作に関してはこれも味わいです)。
エイブリルに敵対しつつ憧れ、ひとりの女(イザベル・ユペール)を共に愛した牧場側の雇われガンマン、ネイト・チャンピオンを演じたクリストファー・ウォーケンが儲け役。
批評家のたわごとに耳を塞いで、今一度まっさらな気持ちで観て欲しい名作です。