『ずっと届かんかった。屋根に引っ掛かった赤い風船にも、木にくっついとるセミの抜け殻にも、雨の日に水玉の傘さして歩くのも、神社の階段駆け上がるのも、全部…』
生まれつき足が悪く幼い頃から車椅子生活を送る女性ジョゼ(自称。本名は山村クミ子。幼く見えるが24歳)。
『海に行きたいって奴は、放っておけなかった』
メキシコの海にのみ生息する「クラリオンエンゼル」の群泳を生で見るという夢のため、留学の切符を得ようと頑張っている大学生・恒夫(メインのバイト先はダイビングショップ)。
『本物の海の中を知っとるんか!? 魚と泳ぐんか!?』
海で働きながら更に遠い海を目指す男と、夢の中でしか海に触れることができない女。
出逢いはラブコメ鉄板のごっつんこ。
「ジョゼと虎と魚たち」(2020年/タムラコータロー監督)
2003年の実写版(妻夫木聡&池脇千鶴)に続く田辺聖子原作小説のアニメ化。
恒夫がジョゼの祖母チヅからもちかけられた高収入バイト、それはジョゼの注文を聞く事(要するにベビーシッター。ルールはひとつ。家の外に出ない。自由時間を手に入れたチヅは速攻パチンコ屋へ)。
人間の正座の限界を知りたい、畳の目の数が知りたい、四葉のクローバー10本見つけてこい。
わがまま大王の無理難題に辟易した恒夫はこのバイトを辞めようとしますが、ジョゼの「海が見たい」という想いだけは無視できず。
この日を境に恒夫はジョゼを次々外の世界へ。
『あんた、今のクミ子見たらびっくりすんで。まるで道頓堀のグリコ看板みたいやからな』
『はい?』
『今にも走り出しそうちゅうこっちゃ』
話の大筋は実写版と一緒ですが、決定的に違うのは、障碍を抱える若い女性のリアルを完全に削ぎ落してしまったこと。
婆ちゃんの死後、おっぱい揉ませる事を条件にゴミ出ししてくれる近所のおっさんは出てきません。
独りになったジョゼを訪ねてきた恒夫を追い返しそうになった後、泣きながら『帰らんといて。そばにいて』とすがってそのまま肌を許すジョゼもいません。
善い人を貫くことができず、ジョゼを親に紹介する事もできずに別れを選び、ふがいなさと情けなさに泣き崩れる恒夫もいません。
枝葉を全て取り去って残ったのは「純愛」。
どこまでも真っ直ぐな純愛青春ラブロマンス。
それはそれで楽しめましたし、ジョゼの想いの全てを込めたオリジナル絵本の読み聞かせシーンは泣けます、ってか泣きました。
因みに本日11月30日は「絵本の日」。
後半アクシデントや挫折や苦悩はありますが、ステレオタイプの予定調和の域を出ておらず、約束されたハッピーエンドに向かってひた走る展開に安堵しつつも、本当にこれで良いのだろうか、綺麗ごとすぎね? でも心地良い…とあれこれ気持ちが揺れる不思議な作品でした。
ふと、俺、実写版のレビューって何書いたっけ?と思って過去記事漁ってみましたら…
ぜ、全然中身に触れていない!
劇中出て来た「SMキング」と「中国産トカレフ」に関するしょーもない蘊蓄しか書いていない!
結構好きな作品なのに!DVDも買ったのに!
ごめんよ妻夫木、許して千鶴。
☜ランキング投票です。きれいごとでもハッピーエンドが大好きという方はワンポチを。
★本日11月30日はベン・スティラー(1965~)の誕生日(おめでとうございます!)
多芸で知られる人ですが、今回は監督・製作・原案・脚本・出演のひとり5役をこなしたこちらの作品を。
★本日のTV放送【13:00~BSプレミアム/プレミアムシネマ】
追悼:アルバート・ピュン
アルバート・ピュン監督がお亡くなりになりました。
11月26日。ラスベガス自宅にて。69歳。死因非公表ですが、数年前に多発性硬化症と認知症の診断を受けていたそうです。
ピュン監督と言えばカルトの誉れ高いこちらと、
50年くらい寝かしておいたらカルトになるかもしれないこちら。
ご冥福をお祈りいたします。