死に際・引き際は男の花道。ましてやシリーズを背負って立った名物キャラの大往生。それなのに、嗚呼、それなのに…。
あんた誰?な昔の女におたくどなた?な昔の仲間に隠し子疑惑。三角関係が縺(もつ)れて解(ほつ)れて…。
なあ、おい。もちっとマシな脚本書けなかったのか?
「必殺!主水死す」(1996年/貞永方久監督)
貞永さんと言えば、中村主水初登場回「必殺仕置人/いのちを売ってさらし首」を演出したお方。最期を看取る監督として正に適任…と思ったのですが。
何ざんしょ、この緊張感のかけらもないゆるゆるガバガバな展開は。
シリーズの蓄積という他に類を見ない財産を使う気はなかったんかい。
記憶を無くした(もしくはカーロス・リベラのようになった)巳代松、棺桶の錠は役者が死んじまってるからやいとや又右衛門、三度舞い戻ってきたおせい、あるいは梅安との夢の越境競演とか、いくらでもファン泣かせな設定があるのに何故利用しない? 「ER救急救命室」の最終シーズンを見習えよ。
あと歴史上の人物に勝手に手ぇ加えるな。
葛飾北斎は(歴史的認識としては)下戸だぞ。べろべろの酒好きにしてどうするよ。
美保純が演じていた北斎の娘、ありゃ本人も絵筆を持っていた所を見ると三女の葛飾応為だろ。彼女は諸説あるけど少なくとも67までは生きているぞ。調べもせんと勝手な思い込みだけで脚本書いているのがバレバレだ。
あと、水野忠邦が「私は再び老中に返り咲く」とか言っていますが、返り咲いているでしょ、ちゃんと。その前に殺しちまっちゃ…(強制隠居させられた後、出羽国山形藩5万石に懲罰的転封となって死去)。
歴史を改竄するのなら、“このような記録はないが、案外こうだったかも”みたいな虚実を踏まえた物言いをしないと。
本作を観て「仕事人」以降の作品が面白くなくなった最大の要因が分かりました。
脚本担当:吉田剛。
この人、多分、旧シリーズ(必殺商売人以前)1本も観てないです。必殺の面白さをビタ一文分かっていない脚本家が書き飛ばしている…ドラマにとっても視聴者にとってもこれ以上の不幸はありません。