『わしを殺せば日本の夜明けが遅れるぞ!』
教養が生んだ一瞬の躊躇が命取り。
(1974年12月28日放送/松本明監督)
必殺を名乗れない大人の事情、黒船来航という明確な時代設定、仕留人が皆義兄弟(主水の妻りつの妹二人の連れ合い)、異例づくめのシリーズ4作目。
特に新機軸だったのは、蘭学者・糸井貢(石坂浩二)の苦悩。
『俺たちが人を殺して、少しでもこの国は良くなったか? 俺たちは何の為に生きているんだ?』
時代は幕末。海には黒船。威嚇の空砲が引きも切らず。開国か攘夷か。
開国派の急先鋒、若年寄松平玄蕃頭(戸浦六宏)は、日本の行く末を案じる良識派ながら、私生活は阿片と女でボーロボロ。
高台にある妾の家から海だけを眺めたいという理由から、悪徳商人・根岸屋を使って眼下の長屋を一斉撤去。
ひとり抵抗を続ける飾り職人・鶴吉(浜村純)でしたが・・。
まだこの頃は中村主水(藤田まこと)に無頼としての色気がありました。枯れた味わいの主水もいいですが、時折抜き身を思わせるギラつき感を見せる主水もなかなかです。
無頼の頂点が「仕業人」~「新・仕置人」なら、枯れの極みは「商売人」。
やはり「仕事人」以降は蛇足ですね。私にとっては。
芥川隆行の軋みをあげる前口上も絶品。
黒船このかた泣きの涙に捨て処なく
江戸は均しく針地獄の様呈し居り候
尽きせぬこの世の怨み一切 如何様なりとも始末の儀
請け負い申し万に一つもしくじり有るまじく候
但し右の条々 闇の稼業の定め書き 口外法度の仕留人
つぶやくように始まり、徐々に力が入って「闇の稼業の定め書き」の所で声に力瘤ができる感じが凄く好きです。芥川ナレーションの中でもトップクラスの出来だと思います。