「誰が払うか、そんな金!」
これは西原理恵子の傑作エッセイ「脱税できるかな」(「できるかなV3」)におけるサイバラの決め台詞。
タイトルからも分かるとおり、「そんな金」とは税金のこと。
お酒の発展も実はこの「誰が払うか、そんな金」スビリッツに支えられております。
昔々、イングランドがスコットランドを併合した時、英国議会はウイスキーの原料である麦芽にとんでもない重税を課す法案を可決させました。1713年のことです。
※イングランドとスコットランドの永きに渡る仁義なき抗争に関しては、メル・ギブソンの「ブレイブハート」(写真2枚目)でご確認ください。
スコットランドの全蒸留所が静かに、しかし魂を込めて叫びました。
「誰が払うか、そんな金!」
払わないスピリッツは2つの流れを生みます。ひとつは数少ない大手蒸留所の流れ。
「税金かかるの麦芽だろ。じゃ大麦使うのや~めた」
という訳で、その他の穀類(トウモロコシとか)を使ったウイスキー造りが始まります(これは日本の発泡酒と同じ発想ですね)。
「グレン・ウィスキー」誕生の瞬間です。
かたや、原料変更に伴う設備投資のできない多くの中小蒸留所は、
「ウイスキーは麦芽で作る!しかし、税金は絶対払わない!絶対にだ!」
と宣言して「密造酒」造りを始めます。
政府の追っ手を逃れて山へ。さらに山奥へ。山奥には澄んだ空気と清涼な水、そして麦芽を乾燥させるのに便利なピート(泥炭)がありました。
追っ手が来ると、作ったウイスキーをシェリーの空き樽に詰めて洞窟に隠してさらに山奥へ。
このイタチごっこを繰り返すこと100年!
ついに根負けした政府が、麦芽の税率を下げる決心をします(1823年)。
「お~い。税金下げたよお~。捕まえないから出ておいでぇ」
ぞろぞろと山を降りる密造者たち。
「あ、そう言や、作ったウイスキー、洞窟に隠しっぱなしだったな。取りに行くか」
ここで密造者達は今まで見たこともない酒を目にします。樽熟成によって琥珀色に変化したピートの香り漂う新しい酒を。
「モルトウィスキー」誕生の瞬間です。
この「誰が払うか、そんな金!」スピリッツは後に海を越えても発揮され、やがて新しい国を誕生させてしまうのですが、その話は次回…。
余談ですが、昔、とある流通業ボランタリーの国際組織に関係していた時の話。
この組織は加盟国が持ち回りで年に一度「国際会議」なるものを開催しておりました。
その年のホストは日本。参加者に各国名称が併記された名札をお配りしたのですが、英国(名札表記はENGLAND)参加者2名から激しいクレームが!
「こいつはウェールズ人、俺はスコッツだ! 断じてイングランド人などではない!」
だって国際本部が作ったリストに“ENGLAND”って書いてあったんだもん!と言っても始まらないので、“U.K.”で妥協してもらいました。
戦いは続いているんですねえ…。