デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

星条旗よ永遠なれ! アイアン・スカイ

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『私は今、戦時下の大統領。一期目で戦争を始めた大統領は必ず再選されるのよ! どこで(戦争を)始めようかと思ったけど…で、こいつら誰?』

『ナチです。…月から来た』

『本物? 凄い! 正に願ったり叶ったりね。アメリカがこれまでまともに倒せたのってナチだけだものねえ。何だかルーズベルトになった気分だわ』

月の裏側にナチの秘密基地。観るまではアイデア一発の所謂“出オチ”なのかと思っていましたが、なんのなんの。

四方八方皮肉と風刺に満ちたブラツク・コメディの快作でした。


2018年、アメリカは再び月面へ。

目的はふたつ。大統領選に備えた人気取りキャンペーン「黒人を月へ」の一環、もうひとつは向こう数千年に渡る燃料問題を解決するヘリウム3の採掘調査。

無事月面着陸した艦長がクレーターを覗くと、そこには巨大なヘリウム3精製工場が!

「そんな馬鹿な!」 うろたえる艦長の前に現われた謎の人影。その手に握られているのはワルサーP38。

艦長瞬殺、着陸船はランチャーで木っ端微塵。同乗していた黒人モデル、ジェームズ・ワシントン(クリストファー・カービイ)は月面ナチス第四帝国の捕虜に。

ハリウッド映画なら、ジェームズが主人公で、彼が単独脱出に成功して帰還、地球防衛軍を率いて月面アタック!となるところですが、本作はフィンランドのオタクが世界中のオタクのカンパで作り上げた豪華自主映画。目線の高さが違います。

本作の主人公はナチの女性教師にして地球研究家レナーテ・リヒター(ユリア・ディーツェ。写真2枚目)。

ナチの思想が世界平和を実現する人類愛に溢れたものであると信じて疑いません。

ジェームズが所持していたスマートフォンにナチのコンピュータを凌駕する計算能力があり、これを接続すれば建造中の最終兵器「神々の黄昏」を機動させる事ができると知ったナチは、白人化薬によってアーリア人となったジェームズを案内役に地球へ。

目指すはアップル・ストア…のはずでしたが、次期総統の座を狙う月面親衛隊准将クラウス・アドラーゲッツ・オットー)には別の思惑が…。

クラウスの狙いは合衆国大統領。クラウスとレナーテが選挙キャンペーンに使えると踏んだ選挙広報担当のヴィヴィアン・ワグナー(ペータ・サージェント)が仲立ちに。

レナーテのナチ・プロパガンダの演説がそのまま大統領の選挙演説にオーバーラップしていく様は本作の皮肉と悪意を象徴する名シーンです(BGMはタンホイザー)。

ナチの教育ビデオが「チャップリンの独裁者」特別編集版だったり、ナチの旗艦ジークフリートヒンデンブルグ型(この時点で末路決定)だったり、宇宙平和条約を無視して兵器積み放題な米国軌道衛星の名前が“USSジョージ・W・ブッシュ”だったりと小ネタ満載(宇宙戦争のBGMはワルキューレ)。

何より「博士の異常な愛情」本編からカットされた各国代表の大乱闘がハイスピード映像で実現したのは嬉しい限り。

『月はアメリカの領土よ! 旗だって立ってるでしょ!』


この女性大統領のモデルはサラ・ペイリン

第11代アラスカ州知事。2008年の大統領選における共和党の副大統領候補。全米ライフル協会終身会員(銃の規制に強く反対)。

ご本人と大統領役のステファニー・ポールの写真を並べてみました。洒落にならないです(笑)。


因みに第四帝国の総統約はウド・キア。相変わらずナイスなおっさんです。