極度の緊張(もしくは軽度のパニック)状態に陥って、周りの風景がモニターの中の映像のように現実味を欠いて見える状態…そんな雰囲気が最初から最後まで続く異様な映画、それが、
修羅の極道などというビデオ用につけられたタイトルに惑わされてはいけません。やくざ映画でもバイオレンス映画でもありません。
同年に「リング」、翌年に「発狂する唇」を書き上げる高橋洋の脚本を、黒沢監督が「CURE」の翌年に撮り上げたサイコ・サスペンス・スリラーです。
8歳の娘を長時間に渡る拷問の末に顔の判別がつかなくなる程に損壊されて殺された宮川(香川照之)。
宮川の復讐に特段の理由も無く手を貸す謎の男・新島(哀川翔)。
ヤクザ組織の幹部・大槻(下元史郎)が事件に関与しているという新島の情報で大槻を拉致・監禁。やがて大槻の口から檜山なる男の名前が…。
次第に壊れていく宮川。新島の目的と真意は?
全編に渡って気温が低い。荒涼。復讐モノに不可欠な血の滾りゼロ。
ぬめぬめとした病的な演技を見せる香川。感情の全てをどこかに捨ててきた哀川。
鎖に繋がれた二人の男を追い込み混乱させ対立させる哀川は、6年早いジグソウ。
ラストで哀川が一言「Game Over!」と言えば(実際、この台詞がばっちり決まるシチュエーションなのよ)完全に「ソウ」になっていたところでした。
私の中での黒沢清最高傑作は「CURE」ですが、次点は本作と姉妹編「蜘蛛の瞳」。
監督、最近は“誰でも楽しめる”一般映画ばっかり撮っているようですが、もうこういう“観る人を選ぶ”作品って撮ってくれないのでしょうか。