
『警備部のお歴々に元特車二課第一小隊隊長から伝言があります。
声の力って凄いです。
劇場公開時にプロデューサー(沢山いるので誰が戦犯か分からない)によって削り落とされた27分を復活させた特別版。
BDの音声特典であるコメンタリー(押井守×辻本貴則)では、劇場公開版を“短縮版”、DC版を“長尺版”と呼称していたので、以降はこれに倣います。
柘植行人によるクーデター事件から11年。柘植は都内某所に現在も収監中。
当事者であり事件収束の立役者でもある特車二課の隊長2名はその後行方不明。
「機動警察パトレイバー2 the Movie」の直球地続きの後日談。お話はP2を振り返り、時に模倣し、時にトレスしつつ進んで行きます(つまり、一見さんお断り)。

左は「P2」のベイブリッジ爆撃。右は本作で爆撃されたレインボーブリッジ。
“押井実写に当たり無し”は経験から学んだことですが、私は本作に関してはアリだと思います。
脚本が伊藤和典ではないのと、実写という足枷からお話のスケールが縮小再生産的になっていますが、映画としての貫禄と体裁は十分整えているのではないかと。

ただ、事件の中核人物達の行動原理が描かれていないのはちと問題。
特に事件の首謀者である柘植のシンパ。彼らの思想信条はどこにあったのか。前回のクーデターから11年後の日本で彼らがやろうとしたことの意味は。ただ単に柘植のやろうとした事の再現では動機としては弱すぎます。
『ねえ。柘植の正義って何かしら?』
『思想や政治的信条を根本において支えるもの…モラルだそうです』
『この国が半世紀以上前に棄てたものね』

もうひとつ。『あんな奴に負けたくない』と言わしめた泉野の心情は。

その辺りは長尺版でも描写不十分なのに短縮版では根こそぎ割愛。公安の高畑警部(高島礼子)が灰原の過去に迫っていく描写は、劇場版1作目で松井刑事が帆場暎一の履歴を辿った過程を模したものだと思いますが、短縮版ではここもバッサリ。
ただでさえ画が繋がっていない(シーンとシーンのブリッジ部分をバカスカ切り落としているので物凄いブツ斬り感)のに、お話も繋がらない体たらく。
『奴らのスポンサーって誰なんですか?』
『この国のスポンサーと言えば、あの国のことだけど…』
『やっぱり…』
勿論、このシーン、短縮版にはありません。
短縮版の編集、誰の指示で誰が実行したのかマジで知りたいです。
個人的見所は何と言ってもカーシャ役・太田莉菜の近接格闘。
銃剣、AK、拳銃を巧みに操ったアクション。久々に動ける女優を拝ませてもらいました(短縮版では景気良くカット。太田さんはマジギレしていいレベル)。

スカーレット・ヨハンソンも嫌いじゃないですが、実写版攻殻の素子は彼女がいいと思います。