『主文、被告人を懲役8年に処す』
『…そんな軽いのんでええのんでっか?』
盟友、大長八郎(菅原文太)を斬殺した田岡一雄(高倉健)。その償いが8年では軽すぎる。
裁判官に背を向けて法廷を後にする田岡のストップモーション。
同じ年、菅原文太も冷徹な意思を漲らせておりました。
『広能! おどりゃ腹括った上でやっとるんか!?』
『山守さん…弾はまだ残っとるがよ…』
盟友、坂井鉄也を殺された広能昌三(菅原文太)。その葬送という茶番に見舞う鉛弾
組長に背を向けて葬儀場を後にする広能のストップモーション。
これは単なる偶然か。
「ゴッドファーザー」に触発された東映・岡田社長の発案で作られた全員実名の実録もの。
まだ存命どころか現役バリバリの暴力団最高幹部の半生をヒロイックに描く全方位喧嘩体勢(東映+山口組vs警視庁+兵庫県警+マスコミ)。
監督が山下耕作なので、現代劇でありながら手触りは着流しやくざの任侠映画。
田岡幼年期の描写はほぼ「おしん」。粒々辛苦を経て成長した田岡は、山口組二代目・山口登の弟・秀雄と同級生だったことから山口組が仕切る沖仲仕のゴンゾウ部屋(港湾労働者の共同生活所)へ。
ここで田岡の面倒を見るトヨさん(田中邦衛)がいい。
田岡が腹を減らしている事を察知したトヨさんは、田岡を食事場に連れて行き、どんぶり飯を振舞います。
『食べりゃんせ。腹一杯食べりゃんせ』
『…』
『よし、俺も食うたろ』
決して“恵んでやる”という雰囲気にならぬよう(田岡のプライドを傷つけぬよう)自然な流れになる気配りをさりげなく(田岡たまらず号泣)。
三下から若衆へ。映画はまだ序盤で幕。田岡の三代目襲名まではあと9年の歳月を要します。
ひとつ気になったシーンが。
後に妻となるふみ子(松尾嘉代)に『あんたがやくざになった訳を教えて』と訊かれた田岡ですが、何故か語られるのは田岡の母が野良仕事中に過労で倒れるシーン(ご丁寧にも倒れる瞬間をスローで3回)。
“そんな過去があったなんて”的な表情で田岡を見つめるふみ子ですが、待て待て、全然質問の答えになってないだろ。