『夜桜銀次いう、ええ極道がおりましてな。それが博多で死によりましてん。その葬礼に来たんだすわ』
昭和30年代、西日本を騒乱させたひとりのやくざ。
厄ネタか、英雄か。死神背負ったアウトロー。人呼んで夜桜銀次。
昭和32年の別府抗争(凶器準備集合罪成立の遠因となった)を皮切りに、35年の明友会事件(山口組の大阪進出の足がかりとなった)、そして37年の博多事件(夜桜銀次事件)まで。
夜桜銀次の生涯を山口組の勢力拡大と絡めて描いています。
石川力夫の物語は彼の死を以って終りましたが、博多事件はここが発端。
石川力夫と並んでその世界ではつとに有名な夜桜銀次を演じるのは菅原文太。
文太の目がいい。
直情的なのに冷え切った目。目の前の人間を等しく死体として認識しているような死んだ魚の目。
『男なら逃げる者は撃つな』と諌められても構わず銃口向ける銀次。
彼が唯一、人として認識し、温かい眼差しを向けていたのが無鉄砲な若者、憲一(渡瀬恒彦)。
銀次のトレードマークだった白のスーツに身を包み、銀次の育てた薔薇のプランターに隠された拳銃を見つける憲一。彼が誓ったのは復讐か、伝説の継承か。
右は銀次について語る吉村(津川雅彦。モデルは後の一和会会長、山本広)
深作流実録とは一味違う山下流実録。ひとつ難儀な点を挙げるとすれば、次々登場する組のテロップが錯綜して旗色の区別がつきにくいこと。
タイトルとは裏腹に夜桜銀次以外は全ての名称が変更されている全方位気配り体制が混乱に拍車を掛けています。