まずは上の表紙写真をご覧ください。
小さく謙虚に「大魔神」。そして筆も折れよとばかりにでっかい朱文字で筒井康隆。
まるで大魔神というペンネームの作家さんが筒井康隆半生記を書き上げたかのような錯覚に陥りますが違います。
正真正銘、筒井康隆著の大魔神です。
では筒井一流の(「12人の浮かれる男」とか「日本以外全部沈没」のような)パロディ本かと言うとそれもハズレ。
本家本元、大魔神のリメイク用に執筆されたシナリオなんです、これ。
「大魔神」(2001年徳間書店発行/筒井康隆著)
何度も企画が持ち上がっては頓挫を繰り返した「大魔神」リメイク企画。
1998年にはスティーブン・セガール主演で東宝配給なんて話もあったそうな(いや、流れて良かった)。
2003年には三池崇史監督で現代を舞台にしたアクション映画として準備中(2008年公開予定)なんてアナウンスも(いや、流れて本当に良かった)。
で、筒井康隆先生の筆による本作。
もう正統派直球ド真ん中。徳川政権下の地方藩(主要産業は製鉄)。家老と商人が結託して鉄砲密造&他藩に密売。
更に私腹じゃぶじゃぶのために流行らせた「講(ねずみ講)」で人心は荒廃。
善人・悪人、武士・庶民・隠密入り乱れた喧騒はさながらソドムとゴモラ。
舞台設定もさることながらビジュアルに対する気配りが秀逸。
川から流れてきた巨大な右手というインパクト。
発破で四散した魔人像が大雨の濁流に乗って流れ下り、やがてひとつに合体するスペクタクル(キングジョーかアイアンジャイアントか)。
桜吹雪の中、埴輪に戻って桜と共に散っていく大魔神。
観たい! このビジュアル、是非、スクリーンで!
御大らしいなぁと思ったのは善人がドカスカ死んでいく不条理感。オフィスに鬼がやってきて金棒で次々に社員を撲殺していく短編「死にかた」を思い出しました。
もうひとつ、らしさが出ていたと思うのが悪人の描き方。明らかに善人側主人公より肩入れしています(こちらに見せ場を割いている)。
悪事やり尽くして未練なし。「殺せ!殺せ!」と高笑いしながら潰される悪人は過去の大魔神には存在しないキャラクターです。
本作の単行本化は、企画が頓挫(金掛かるし、徳間康快さん途中で死んじゃうし)した事のお詫びなんじゃないかと思います。
目立ちすぎる作者表記、リバーシブルジャケット(写真下)、新進気鋭のイラストレーターたちによる挿絵競演。「先生、これで勘弁してください!」という徳間の叫びが聞こえて来そうです。
これだけの素材がありながら、実現した映像化作品が「大魔神カノン」だけってどういうことよ?
もう監督、庵野でいいです。特技だけなら樋口もOK。今からでも遅くありません。この脚本で映画化してください。