『腹は切らん。たった今切らぬと決めたわ! この時ただいま備中守正俊、酒井大老に叛逆いたす! 館林綱吉殿を推し立て、見事生き延びてみせるわ!』
窮鼠猫を噛む捨て駒の叛乱。心地良い啖呵です。
1680年。江戸幕府の大老、酒井雅楽頭忠清(松方弘樹)の悩みのタネは次期将軍。
四代将軍の徳川家綱は虚弱体質で世継ぎも不在。血筋で行けば家綱の次弟の綱重(神田正輝)だが、尾張当主の徳川光友(金子信雄)は「将軍位継承の権利は御三家にもある」とか抜かしよる。
何とか綱重擁立で押し切って堀田備中守正俊(三浦友和)に綱重出迎えに差し向けたら、十三人くらいの刺客に襲われ綱重死亡。
刺客の太刀筋は尾張柳生新陰流。ただひとり生き残った備中守は屈辱に耐え復讐を誓うが、世継ぎ問題は待ったなし…。
綱重の遺児・虎松か。家光の側室・桂昌院の実子・綱吉(坂上忍)か。
という「柳生一族の陰謀」の夢よ再びなアクション時代劇。
高田宏治の手によるシナリオはよく出来ていると思うのですが、演出のバランスがイマイチ。権謀術策パートとアクションパートがぶつ切れで繋がりが悪い。
クライマックスの大橋爆破はマジに爆薬しかけての破壊工作で続く河中の大殺陣と併せて見応えはあるのですが。これを観ると「柳生一族」は本当によく出来た作品だったんだなぁと改めて。
綱吉が実は酒井大老と桂昌院(十朱幸代)の間の子供だとか、最後に酒井が綱吉の前で立ち腹切るとか「おいおい」な設定があるので“歴史もの”として観るのもちとマズい。
ここは役者の過剰なる演技を楽しむのが吉。
松方弘樹の大歌舞伎・田中角栄な演技、金子信雄の痛風に苦しみながら金で将軍の地位を買おうとする姑息な演技など見所満載。
大老の陰謀を暴く加藤武(堀田備中守の義父・稲葉正則)の無骨で実直で真摯な演技は一服の清涼剤。
逆に尊大・不遜・天上天下唯我独尊なキャラを演らせたら地としか思えない名演(?)を見せる坂上忍の綱吉もいい感じ。
と、それなりの役者を配してはいるのですが、何かが足りないもどかしさ。何だろう。
…成田三樹夫だ!