デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

犬死の美学/野良犬の矜持。 大殺陣

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「俺は初めて人を斬った。その俺が気持ちをお主のような者に聞いてもらいたかった。それが甘えた事になると今気がついた。お主にではない、世の中にだ。迷惑をかけず、かけられず、そう言ったなお主。だが、何もせぬという事が庶民にとってどれほど迷惑か。お主考えたことがあるか」

またしても長々と引用してしまいましたが、この台詞は、下級の武士が御政道を揺るがす陰謀に巻き込まれ、狼狽し、認識し、自覚し、そしてテロリストに“成長”していく過程でのいわば決意表明なのです。

大殺陣(1964年/工藤栄一監督)

甲府宰相(徳川綱重)怪死(酒害といわれているが詳細は不明。from Wiki)事件の裏にあったかもしれない大謀略。

軍学者山鹿素行(安倍徹)が堀田備中守を抱きこんで画策した大老・酒井雅楽頭(大友柳太郎)暗殺計画。

しかし、この企みは直前に露見、実行犯と目された者は次々と捕縛。物語はこのテロ計画失敗から始まります。

逃亡中の実行犯と知り合いだった事からこの陰謀に巻き込まれた下級武士・神保(里見浩太郎)。妻を殺され、家も失った神保を匿ったのはノンポリ侍・浅利(平幹二朗)。

「何か仕出かすのも結構だが、よく考えてする事だ」

山鹿配下からの誘いに「おぬしらに関わるのは真っ平だ」と言っていた神保でしたが、義の為に身を投げ出す子沢山の貧乏御家人大坂志郎)らと出会い、いつしか仲間に。

酒井の暗殺が困難と察した山鹿は、酒井が頼みとする次期将軍候補筆頭・綱重を討ち、彼の野望を絶つ方向にシフト・チェンジ。

水戸のご老公を見送った綱重一行を新吉原に誘い込み、殲滅を図る。大名行列を向こうに回して手勢は僅か6名。

「僅か7日前の何事もなかった暮らしが遠い昔のようだ。短い一生のようにも思うが、何事もし尽くした一生のようにも思う。この7日の間が私の本当に生きた生涯だった」

裸馬の大暴走を合図に始まる新吉原での大殺陣。右往左往する篭、取り巻く家臣、正面突破を図る神保たちを捉えた俯瞰の固定ショットが素晴らし過ぎ。

ロングの固定カメラでこの密度、このうねり。殺陣に自信があればカットを細かく割る必要なんかありません。

吉原でしっぽりキメようと思っていたノンポリ浅利でしたが、目の前で斬殺されていく神保らを見て野良犬魂スイッチ・オン!

このあたりになるとこちらの姿勢もほぼ正座

増田俊光氏のサイトを読んで知りましたが、本作クライマックスの騒乱シーンには安保闘争の警官隊と学生たちの怒号が掛け合わされているそうです(多分、ノンポリ浅利が覚醒するシーンのSE。凄すぎる!)。

柳生一族の陰謀」ラストの萬屋は絶対、本作の大友を意識していますね。

キャラの中では子煩悩な貧乏御家人を演じた大坂志郎が絶品。
「叱るな叱るな」が口癖の彼が決行前に「おれは家の始末をつけてから行くよ」(お、お父ちゃん!)。

芥川隆行の抑えに抑えたナレーションがハードボイルドの誉れを上塗りしています。

 

 


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