所謂「家モノ」ホラーの中でも「洋館モノ」は、純和風な「屋敷モノ」とは一線を画しながら、西洋に憧れる日本人の心情を反映しているという意味で「1周回って純和風」なジャンルと言えるでしょう(すまん、自分でも何を言っているのか分からない…)。
音楽はバロック、お話は怪談・奇譚、背景に悲劇、白い肌と紅い鮮血。
そんな洋館モノのイメージにピタリと嵌るのが、
「幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形」
(1970年/山本迪夫監督)
東宝特撮恐怖映画「血を吸う」三部作第1弾。
海外出張から戻った佐川和彦(中村敦夫。若い!顔テカテカ)はその足で婚約者・野々村夕子(小林夕岐子)の待つ山奥の洋館へ。
迎えたのは不気味な下男・源造(高品格)と夕子の母・志津(南風洋子)。
『夕子は死にました。半月前に。事故で』
洋館で一夜を明かすことになった和彦は庭を徘徊する夕子の姿を見て後を追いますが…。
ここから主役は婚約者に会いに行ったきり消息不明になった和彦の妹・圭子(松尾嘉代。若い!でもやっぱりエロくない)とその恋人・浩(中尾彬。若い!金田一変身5年前)にバトンタッチ。
主役と思われた人間が事件に巻き込まれて退場、近親者が捜索に乗り出すというパターンは「死霊の町」(1970年。同年に「サイコ」も)と一緒。
あからさまに言動が怪しい志津を訝る圭子と浩。
夕子の墓の周りの土は緩く、周囲には噛み千切られたような鳥の死体と血のようなものが付着した和彦のカフス。
浩は夕子の墓を暴く決心をしますが…(以下、夕子の正体に関するネタバレを含みます)。
夕子は生きていました。いや、正確には死んでいませんでした。
車ごと土砂崩れに巻き込まれて瀕死の夕子に医者が施したのは…催眠術。
ん?催眠術? 催眠術で死を回避できるのか?
俄かには信じ難い(一晩考えても信じ難い)話ですが、元ネタはエドガー・アラン・ポーの「ヴァルドマアル氏の病症の真相」。
臨終間際のヴァルドマアル氏に催眠術を掛けたら、死なずに眠り続け、こちらの問いにも反応するように…。
催眠暗示で死を知覚させず、生と死の境界を曖昧に漂わせるというのは斬新な発想です。
誤算だったのは、夕子が元の性格とは異なる血に飢えた殺人鬼(吸血鬼)として覚醒してしまった事。
ここいら辺は後の「ペット・セメタリー」を彷彿とさせます。
カラーコンタクトを使った夕子のビジュアルはなかなか。
唯一の不満は「最後に洋館が崩落しなかった」事。
やっぱ洋館は崩れてなんぼでしょう(←暴論)。
「ウルトラQ/クモ男爵」「HOUSE ハウス」「スウィートホーム」「ゲーム版バイオハザード」、どの館も皆最後には崩落しています(バイオは爆発ですが…)。
瓦解崩壊崩落炎上は、お話の不備も矛盾も最後に全部チャラにしてしまう魔法のやり逃げアイテムなのですが、まぁプログラム・ピクチャーにスペクタクルはないものねだり。
この洋館(の模型)を景気よく壊して(できれば燃やして)欲しかった…。
リメイクすることがあれば是非、内から外からめりめり崩落させてください。
★ご参考