《雷先輩、行け!》
《もし、物憂いイメージだったらごめんね。
あたし、楽しいのが好きなの!》
演奏本番直前、雪が雷に持ち掛けた「変則的なこと」。
それは長唄の手を入れること。
雪のイメージは「雪とか桜が舞ってるみたいな(曲調)」でしたが、雷先輩のチョイスは同じ舞うでも紙吹雪。
突然、じょんがら節に割り込んで来たのは大薩摩節。
江戸浄瑠璃の一派として大薩摩主膳太夫(おおざつましゅぜんだゆう)が創始し、伴奏音楽として栄えたものの、やがて衰退。最終的には長唄に吸収され、現代でも歌舞伎の演目に使われている豪壮な曲節。
度肝を抜かれる観客と審査員。それは奏者も同様。
『これ、面白ぇ』
『楽しい』
『弾きやすいじゃん』
演奏途中にもかかわらず沸き起こる拍手。
『じょんがらの面白さは、テンポと迫力や思うてた。こんな楽しくもなるんや。独創性に終わりなしやんか』
雷先輩を隠し玉に使う雪の賭けは図に当たったようです。果たして順位は…。
「ましろのおと/第9話・風花」
(2021年5月28日深夜BS-TBS放送/村田尚樹演出)
遂に出番となった梅園学園。ステージに上がって尚作戦を指示する雪。
『海人、前半の一の糸、思いっきり叩け』
『何で最初の方?』
『調弦が狂わねえうちに…ハッタリかませ!』
言い終わるや演奏開始。メトロノームのように正確な雪の前奏が朱里や結の気持ちを落ち着かせていく。
『は!』
唸りまくる海人の一の糸。そこに厚みを重ねるように雪の音が細く長く…泣きの調和。
耳ある者にはその音がはっきりと届き…。
『澤村雪、なして陰さ回る!?』
舞の苛立ちをよそに、雷先輩の大薩摩節炸裂。
徹底してサポートに回っていた雪も終盤でスパート。
『そうだ、硬く乾いた木の音は体の芯まで痺れ酔わす』
大阪の梶貴臣の演奏の時は「風」を感じましたが、雪の音が会場にもたらしたのは「風花」の幻影。
静寂から一転、万雷の拍手。
大阪が、福岡が、不器用千万な称賛を伝えに雪のもとへ。
全参加チームが演奏終えて入賞チーム発表。
梅園学園は3位。
『3位?なして…あの演奏が…優勝はねくても3位は…』
と訝しむ舞の青葉第一高校はまさかの準優勝。
1位は伏兵、大阪府ビリケンさん。
『なして?なしてだ?なしてこっただ素人の大会で負けた?澤村雪ば負かす事が目的だったばって…嫌だ…優勝じゃねば嫌だ』
納得いかず受賞を拒む舞を兄の総一が叱責。
『みったくねえ真似すんな。自分の腕ば過信するからこった事になる。おめえの音は耳に優しくねかった。遊びで三味線弾いてねえんだ。評価は受け入れろ』
この総一と若菜、W兄ちゃんズの感想と解説が副音声的に的確なのが良かったです。
そして最後の賞、最も会場を沸かせ、音の可能性を見せてくれ、興奮させてくれた審査員特別賞が梅園に。
『わたしは…澤村雪に…勝ったのか?』
自分にない音を出されたら刺激を受けると同時に嫉妬もする。それは苦しくて醜くて嫌なものだ、という緒方洸輔の言葉を思い出す舞。
『あんたは、いつ苦しさば知る?』
貼り出された得点表。3位と4位の間には100ポイント近いが開きがありましたが、優勝と準優勝の差は2ポイント。準優勝と3位の差に至っては僅か1ポイントの大接戦。それだけに…
『悔しい…』『あたしも…悔しい』
当の澤村雪は…
『やりきった。後悔は無い。だども…胸が苦しい』
激闘の団体戦終了。いよいよ明日は個人戦。田沼総一はどんな音を出すのでしょう。
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