食材はトンデモな部分も含めて美味しそう。
ヒロインが既に死んでいる、という意表を衝いた設定。
その心臓と意志を引き継いだ第2のヒロインの登場。
時系列を前後させたトリッキーな構成。
手練れが演出したら滅茶盛り上がる題材だったと思うのですが…。
「探偵はもう、死んでいる。/第9-11話」
(2021年8月30日9月6日・13日深夜BS日テレ放送/栗原学監督)
タイトルにある通り(そして作中何度も台詞で語られている通り)、ヒロインである名探偵シエスタは現時間軸ではこの世におりません。
巻き込まれ体質の主人公・君塚君彦(登場時中学生)はシエスタとの3年に渡る大冒険の末、シエスタを失って平凡な高校生に。
その前に現れたのはシエスタの心臓を移植された少女・夏凪渚。
ここで、お話は時計の針を巻き戻してシエスタと君塚の冒険譚へ。
シエスタが死ぬことは与件。なので、ここに意外性を盛り込むことは出来ません。
当然、観客の焦点はシエスタがどのように死ぬのか、に集約されていくのですが、何故でしょう、引っ張りまくる割に盛り上がる気配がありません。
最終的には少女アリシアの生み出した別人格・ヘルに心臓を捕食される事になるのですが、中締め的クライマックスになる所がウルトラあっさりタメ無し引き無し塩気無し。
まるで夢オチのような扱いで現時間軸へ。
と、ここで疑問。
君塚はシエスタの心臓がヘルの中にある事を知っているはずなのに、夏凪がシエスタの心臓を有していると知っても夏凪とヘルを結び付けることなく、その事実を受け入れましたがそれは何故?
記憶が操作されたか、何らかの事情で記憶障害を起こしているかなのは想像がつきますが、何の説明もないのでモヤモヤ満開。
せめて何か当時の映像がフラッシュバックとかして「何だ今のイメージは?」くらいの前振りをしといてくれれば、オチが説明されるまで適当に脳内補完して興味を繋げる事ができたと思うのですが。
現時間軸10話の舞台は洋上。君塚のブレーンになった現役アイドル・斎川唯(金持ち!)の計らいによる豪華クルーズ。
この船上でシエスタ、君塚とトリオを組んでいた盟友シャルと再会するのですが、ここもタメ無し引き無しドラマ無し。
何か近所で「あらこんにちは、お買い物?」な軽いご挨拶している感じ。
そもそもシャルとの出会いも仲間になった経緯もシエスタ死亡後のゴタゴタも描かれていない(シャルがシエスタの死をどう受け止めているのかも分からない)ので、盛り上がりようがないのですが…。
で、この船にSPESのカメレオンが乗り込んで夏凪を人質に「(それが何かも分からない)名探偵の遺産を渡せ」と君塚に迫るのですが、緊迫感のカケラもありません。
自分を犠牲に、と主張する夏凪に上条さんばりの説教をかます君塚ですが、ちょっと良い事言ってやったぜ的な内容で刺さらない刺さらない。
船から落とされた夏凪を斎川が救出して、カメレオンvs君塚、加瀬警部補の操縦するヘリで援護にきたシャルを交えての銃撃戦になるのですが、ここも「う~む」。
ガバメント弾切れでスライドストップしてないとか、シングルアクションのM1911A1でダブルアクションかますとか扱いが滅茶苦茶。
ヘリの上からシャルが「残された者」としての心情を吐露するのですが、経緯知らないから全然グッと来ないですし、大体、軍用ヘリのローター音とガトリング連射音の中で会話なんか出来るわけないじゃない。
カメレオンが甲板ぶち抜いて階下に落下。ここで頭打った君塚にようやくシエスタ死亡時の記憶が覚醒。
ヘルに捕食されたシエスタの心臓がヘルの意識を乗っ取って、別人格としての存在自体を抑え込み、アリシアの精神を解放する。
記憶障害はヘルの操る魔獣(?)の体表に咲いた花の花粉の副作用。
『次に君が目覚めた時、きっともう私はいないけど…いい、私は君を忘れない。たとえ意識を凶悪な敵に奪われても、君の事だけは忘れない』
もう一度この体は君に会いに行く。
その約束が今、夏凪渚の身体を借りて。
『久しぶりだね』
もっと感動してもいいはずの場面なのですが、何がいけないのだろう。
思索に溺れず心情語らず主張は行動、がハードボイルドではありますが、もう少し熱い展開が欲しい…。
どうもシリーズ構成を担当している赤尾でこさんとは今ひとつ相性が良くないみたいで。
「ひげを剃る。そして女子高生を拾う」は1話切りでしたし、「通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?」「同居人はひざ、時々、頭のうえ。」は途中切りでしたし。
「謎の彼女X」と「ふらいんぐうぃっち」は良かったのですが。
10月期の「古見さんは、コミュ症です。」もでこさんかぁ。
ちょっと不安(でも総監督が「謎の彼女X」の渡辺歩だから大丈夫かなぁ。結局は演出家の腕次第か)。
★赤尾でこシリーズ構成の私的アタリ作2本。
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★本日9月14日はポン・ジュノ監督(1969~)の誕生日(おめでとうございます!)。
最早曼荼羅畑では取り上げる事のないK国映画ですが、この頃はまだこだわりなく観ていたなぁ…。