どんな悪事を働いていたのか全く分かりませんが、悪の親玉という記号として存在する眼帯男マニングス(ゲイリー・オールドマン)。
裁判にかけられたマニングスに不利な証言をする証人を金で抱き込まれたFBI捜査官が総出で消そうとするのですが、暗殺計画に「運び屋」(オルガ・キュレリンコ。中身は詮索しないで荷物を運ぶバイク便トランスポーター)を使ったことから事態は思わぬ方向に…。
FBI&殺し屋軍団を向こうに回して証人の命を守る破目になった運び屋の大活躍…という例え低予算でも脚本と演出がしっかりしていればそこそこ観られる出来になるはずの題材だったのですが。
残念、調理は大失敗でした。
「ザ・クーリエ」
(2017年/ザカリー・アドラー監督)
まずゲイリー・オールドマンとオルガ・キュレリンコのスケジュールが合わなかったのか、ゲイリーはアメリカの自宅で軟禁状態、オルガは証人がネットワーク回線を通じて証言するロンドンと関わるので、折角共演しても顔も合わせなければ言葉のやりとりもないのがもったいないにも程があります。
そもそも、オルガはとばっちりで巻き込まれただけなので、ゲイリーの悪行も知ったこっちゃないですし、社会正義も義憤もありません。
証言の中継地点となったのはロンドンのとあるビルの一室。
抱き込まれたFBI捜査官はここで証人も護衛の警官も皆殺しにして(勿論、運び屋も消して)、犯行は全部運び屋がやった事、にするつもりだったのですが、運び屋が「シリア政府軍の壊滅作戦に参加した元特殊部隊あがりの女」だったからさぁ大変。
立ち上がりの設定から、証人連れた運び屋が地雷原と化したロンドンをバイクでビュンビュン疾走する、みたいな絵面を想像していたのですが、開けてびっくり。
何とお話は最初のビル(の地下駐車場)から一歩も出ません(正確には一歩は出るけどまた戻って来ちゃう)。
封鎖された地下駐車場でプロの殺し屋部隊と局地戦。はてさて、一体どこから突っ込んでいいものやら…。
証人とバイク二人乗りで逃げる運び屋を後ろから(つまりバイクの移動方向と弾道の向きが同じ状態で)撃って一発も当たらないってどういう事よ。
駐車場の中をこそこそと隠れる動きは完全にコントでBGMに「ピンクパンサー」のテーマとか掛けたらピタっと嵌ると思います。
駐車場の車を「直結」させて(←今の車でこれ出来るのか?)スタートさせますが集中砲火。
『飛び降りるよ…今だ!』
ちょっと待て。お前はいいかもしれんが、戦闘訓練なんか受けた事の無い一般人にそんな芸当出来ると思うか。
しかも、飛び降りたカット無し。ドアが開いた気配も無し。
一瞬で車(の両サイド)から飛び降り、飛び降りを疑われないようにドアを閉めるとは何という高等テク。
その車を殺し屋軍団が寄ってたかって蜂の巣。「ガントレット」リスペクトなのかもしれませんが、ターゲットが乗っているかどうかぐらい確認しろよ。
揃って全弾打ち尽くしてから「いないぞ!」ってアホの子なんですか君たち。
プロのスナイパーの弾が(初弾を除き)当たらない上にここぞという所で弾切れとか本当にプロですか?
現場指揮執っているFBI捜査官、時折クスリのようなものをボリボリ齧って「レオン」のゲイリー・オールドマンリスペクトな事をしていましたが、ただテンパっているだけにしか見えません。
そのゲイリー・オールドマンも自宅でクラシックなぞ聴きつつ余裕かましておりましたが、ヤバくなってくると自分に心酔している娘に八つ当たり。何だお前もテンパっていたのか!?(全方位一杯一杯だな)
景気よく撃ちまくっていたと思ったら何故か最後は対格差を無視した肉弾戦になっちゃうし。
オルガがちょっと戦闘齧った程度の一般人なら窮地に追い込まれてもいいですが、(例え宣伝文句だけでも)「元特殊部隊最強の女」とまで言ったのなら無双してくれないと話になりません。
これ、もし、全員がアメリカ(ロンドンでもいい)にいて、ゲイリーとオルガの間に何らかの因縁とか確執でもあれば、「通信が駄目なら直接裁判所に証人届けたる!どけどけ~!」な王道展開(証人が現れず閉廷になりかけた所でドアが勢いよく開いて傷だらけの二人が入廷してエンド)になったのかもしれませんが。
正に「残念無双」な一本でした。
おまけ
本作で「お!?」っと思ったところをひとつだけ挙げるとすれば、オルガの運転する車のボンネットに飛び乗って来た殺し屋が、頭蓋を車で踏み砕かれるところ。
カーアクシデントでダイレクト頭パッカーン!なカットはなかなかお目にかかれません。
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★本日12月12日はフランク・シナトラ(1915~1998)の誕生日。
印象深いのはこちら(個人的超お薦め)。
★もうおひとり、ジェニファー・コネリー(1970~)も本日が誕生日(おめでとうございます!)
ジェニファーと言えばやはりこれですよねぇ。