『全て正真正銘の事故物件です。
こちらの物件では、住む人が孤独死ばかりするそうです。窓からスカイツリーが見えてロマンチックです。
こちらのタワマンでは、47階のベランダから飛び降り自殺がありまして。ご遺体はご家族でも本人確認できなかったとか』
「女優霊」「リング」「仄暗い水の底から」でJホラーの礎を築き、「劇場霊」「貞子」「クロユリ団地」で全ての功績を自らの手でチャラにした中田秀夫監督。
果たして捲土重来は成るのでしょうか。
「事故物件 怖い間取り」(2020年/中田秀夫監督)
残念ながら、ホラーとして観たら全身腰砕けでがっかりぐったりばったりぽっくりです。
しかし、最初から「お笑い」を狙っていたのだとしたらある意味新境地と言えるかもしれません。
10年間鳴かず飛ばずでコンビ解散となった関西のお笑い芸人ジョナサンズ(中井&山野)。
中井の方は放送作家として独り立ちできそうですが、相方の山野ヤマメ(亀梨和也)にはピンで生きる力もなく…。
降って湧いた企画が「事故物件に住む」。
事件のあった部屋を借りてカメラを回し、何か写っていたらテレビに出してやる…無茶振りな企画ですが、藁をも掴む気持ちで受けたら…映っていた、何か変な白い光が。
これをきっかけに山野は「事故物件住みます芸人」としてブレイクしていきますが…。
相変わらず出涸らし感満開の恐怖演出には乾いた笑いしか出ませんが、ホラーと言う視点を捨てて「ニューウェーヴなお笑い」だと思えばなかなかに楽しめる作りにはなっています。
支えているのは不動産屋の事故物件担当者、横水純子を演じた江口のりこ。
事故物件に味を占めた山野が不動産屋で事故物件を所望。まるで道場破りが来たかのような警戒心で一歩引いた窓口担当者が『た、ただいま、担当者を…』。
事故物件の担当者がいるんだ!?というこちらの驚きをよそに現れたのが真っ赤なドレスの江口のりこ。
そのアルカイックスマイルは「大丈夫、万事理解しております」な慈愛を湛え…。
ガラスケースから出した貴金属のように1枚1枚丁寧に物件表を並べ「どれになさいます?」と迫る姿は相手の審美眼を推し量ろうとする勝負師の如し。
山野の東京進出が決まった時は神棚からとっておきの事故物件を取り出し「上意!」の如く掲げるサービスぶり。
『恋人同士が無理心中しまして。発見された時、二人で抱き合うようにしてお亡くなりになっていたそうです』
山野のように次々事故物件を渡り歩いてもらえると、ルームロンダリングになるので、不動産屋としては足を向けて眠る事ができない存在だったりするんですね。
江口さんはデビュー作の「金融破滅ニッポン 桃源郷の人々」(2002)、翌年の「ジョゼと虎と魚たち」辺りから、既に独特の存在感がありました。
写真はどちらも「ジョゼと虎と魚たち」
本作の実質主役と言っていいでしょう。
他にもノリと勢いだけで生きているプロデューサーの木下ほうか、東京でテキトーを煮〆た神主役でカメオ出演している高田純次など愉快な面々が脇を固めております。
売れないお笑い芸人コンビという設定と「ちょっといい話」にしようとしている小賢しさで、前半は「ボクたちの交換日記」を観ているような気分に。
それがクライマックスでは山海塾のかくし芸大会のような展開になるんだから笑う以外のリアクションがとれません。
何より困ったのは本作にはモデルになった芸人の原作があるということ。
「事故物件住みます芸人」松原タニシの「事故物件怪談 怖い間取り」がそれ。
「実際、そうだったんだから仕方ないじゃん」と言われてしまうと反論ができないのですが、いやそれにしても…。
正直「呪 ノロイエ 家」の方が数段面白かったと思います。
★Jホラーの輝かしい黎明期(中田秀夫監督)
★Jホラーの寒々しい終末期(いずれも中田秀夫監督)
★事故物件のルームロンダリングと言えば…
★お笑い芸人の青春模様と言えば…。
★本日2月12日は日本の首領・佐分利信(1909~1982)の誕生日。
今回は首領(ドン)ではなく黒幕(フィクサー)の方を。
★そして本日は岡田奈々(1959~※AKB絡みの方じゃないぞ)の誕生日(おめでとうございます!)
作品としてはあまり(と言うか全然)褒めていないので、いささか心苦しいですが、やはり岡田奈々と言えば、