【強運・凶運・狂運・不運】覇王　凶血の連鎖 Ⅲ／Ⅳ【己の頭上に瞬いているのはどれだ】

『母ちゃん…俺も逝くんかのう…うおぉ！ちょっ待ってくれ神様！俺も優作になりたか……なんじゃこりゃあ…』

力なく息絶える陣内（小柳心）。ブラザートムご子息無念の退場（しかし見せ場は作った）。

小柳心だけではありません。

獅子身中の虫として組のトップを屠り、ラスボス（悪くても中ボス）にはなるだろうと思われた内藤新宿一家舎弟頭・金丸（加藤雅也）が「Ⅲ」OPで自殺！

最初、炎に包まれながらも生き延びて組への復讐を誓った盟友・鷲尾清春（小沢和義）を想ってのイメージ映像かと思いましたがリアル放火。

何と志半ばにして組事務所に火を放ち自らも燃え尽きる「白昼の死角」岸田森を思わせるオープニング焼身。

一気に話は混沌の坩堝。更に新しい厄ネタが加わって勢力地図に方位無し。

勢いありすぎだろ…。

「覇王　凶血の系譜 Ⅲ／Ⅳ」（2017年／小沢和義監督）

鷲尾の血統だけが一家長を継ぐことが出来る「世襲制」を350年の長きに渡って守って来た内藤新宿一家。

その12代目・鷲尾軍司（小沢仁志）が謀殺された。継承の権利を持つ鷲尾大河は未だ小学生。

一旦、舎弟頭の金丸を総長代行として擁立、組の立て直しを図ろうとする内藤新宿一家ですが、金丸には別の思惑がありました。

12代目鷲尾軍司は実は養子。11代目の血を引く正当な後継者・鷲尾清春は軍司によって（11代目共々）斬殺&焼却されておりました。

この時、間一髪、清春を助け出したのが親友の金丸。

金丸は全身大火傷の清春を海外に密航させ、自らは内藤新宿一家に。頭のキレを武器にのし上がり舎弟頭まで。

待つ事待たせる事35年！　復讐の準備は整った！

が、ここに一歩先も読めない厄ネタが。

内藤新宿一家舎弟・大神（冨家規政）。あまりに歯止めが効かない性格のため顧問の土岐雅彦（渡辺裕之。軍司が襲撃された時に楯となって死亡）が謀って刑務所入りにさせた狂犬中の狂犬がお勤め終えて出所。

ここに内藤新宿一家は、正統・大河を13代目に推す土岐零時（山口祥行）一派と、血統・清春を新12代目に据えて歴史のやり直しを画策する金丸一派（金丸の焼身によって志は舎弟頭補佐の司馬が継承）、そして、世襲制なんか知った事かと盤面返しを目論む大神一派の三つ巴戦に突入。

更に、裏では関西を〆る難波会から流れて来た（関西への返り咲きを狙っている）松浪組（軍司襲撃の実行犯）が暗躍。

手を握るかに見える順列組み合わせ全てが従面腹背。

見どころは「Ⅰ」で謎の全身包帯スナイパーとして登場し、「Ⅱ」でその出自が明らかになった鷲尾清春の人間性。

逃亡先のフィリピンで出会った声の出ない女スズ（岩佐真悠子。赤ん坊の時に泣き声がうるさいからと父親に喉を切られた）。

死んだ魚のような眼をしていたスズが清春と出会い、銃やナイフの手ほどきを受け、互いに背中を預ける関係に。

日本で初めて二人連れ添ってのお出かけの日、人目を引く容姿を気にしてフードを目深に被る清春ですが、スズはこれを取り去り、自らもマフラーを解いて喉の傷を曝け出し…。

物言わぬ清春と物言えぬスズ。無言の信頼関係。

それは勿論、その後の悲劇のフラグでもあるのですが。

もうひとつ、零時と逃亡生活を続けながら、いつしか総長として必要な事を学んでいく大河の存在もまた。

「筋を通す」「決して仲間を裏切らない」。自らの意志として学び行動していく大河が少しずつ逞しくなっていきます。

「喧嘩は駄目」「逆らわない」「武器も持たない」と言っていた大河の心境が、目の前で自分を守るために死んだ陣内を見てどう変わっていくのか。

「Ⅳ」ラストでは遂に清春と零時が直接対決。

次々人が死に、次々新キャラが登場（ビッグネームも続々）しているのに物語に破綻も混乱もない。何より飽きが来ない。

稀有なシリーズではないかと思います。

おまけ

大神が内藤一家がケツ持ちしていると知りながら松浪組のカジノをささらもさらにした場面。

『あんた、ヤクザやんのに一番大事なものって何だと思う？金か？力か？盃か？運だよ運。運のねえ奴から死んでいくんだ、この稼業は。俺にはな、ムショで溜め込んだ恨みと運がたっぷりある。俺が許さない限り、誰も俺を殺せねえ。試しにやってみな。おい！誰か弾いてみろよ。弾が俺を避けるからよ』

一触即発。松浪組の銃（リボルバー）をとり上げた大神が弾倉に1発だけ弾込めてこめかみに。

立て続けに引き金を引く事5回！　弾は出ない。