デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

【自由の鎖】人数の町【人間牧場】

『分からないのかデュード。何故この景色がこんなに美しいのか』

『教えてください、チューター』

『それはな…自由だからだよ』

借金取り、警察、DV夫からの解放。自由の代償は個の放棄。

「人数の町」(2020年/荒木伸二監督)

借金で首が回らなくなり取り立て屋にボコられていた蒼山哲也(中村倫也)は黄色いツナギを着た謎の男に助けられます。


『居場所、ないんだろ?いるか?いるよなあ。用意してやるよ、デュード』

長時間、バスに揺られて着いたのはどこぞの山中の広大な施設。


個室があてがわれ、施設内の移動は自由。ハッテン場としてプールが用意され、当人同士が合意すればSEXも自由。

住人は簡単な軽作業(SNSの絶賛/罵倒コメの投稿、選挙でのなりすまし投票、新薬の人体実験など)と引き換えに衣食住が保証される。

誰が? 何のために? という疑問を持つ事もなく(そもそも主人公含め流されるままに自堕落な生活を送って来た連中なので、こういう時の順応力は高い)、飲んで喰ってまぐわって、ちょっと動いてまた食べる。

上九一色村ヤマギシ会が思い浮かびますが、あれらは隔絶された個の集団であったかと思います。

「THX1138」ですら番号による個の識別がありました。

この「町」は違います。人は群体として放牧され、個というものが存在しません(住人は全てデュードと一括呼称される)。

発電に必要な電力、解析に必要な容量、そういう別の単位に置き換えられる「何か」になる事、その単位を構成している限り自由が保障されている…。

人間牧場です。

柵はありますが見張りは無し。ただし、町(もしくは携帯用簡易リモコン)から一定距離以上離れると脳内に激痛ノイズが(入町時に首に何か撃ち込まれておりました)。


この前半の謎施設、謎ルール、謎仕事の描写はなかなか。

これが後半、この施設に入所している妹(立花恵理)を探しに来た姉(石橋静河)の話になると途端に失速(と言うか脚本が一気に杜撰に)。

前半でディテールの積み重ねを怠ったツケが回って来たとも言えますが、心情描写が唐突な上に話も飛ぶので、このシーンはひとつ前のカットと繋がっているのか、それとも時間経過があったのか、とかどうでもいい事にまで気を回す始末。

寓話だとしても(いや寓話ならなおさら)説得力としてのリアリズムは必要です。

色んなテーマを孕んでいるだけにもちっと丁寧に撮って欲しかったなぁと思います。

 

★エリアを出ようとすると激痛が…と言えば、こんなのも。

 

★本作のジャンルはディストピアミステリ」なんだそうです(大きく出たなあ)。

正しいデストピアの先達をご紹介しておきましょう。

 

 

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★本日8月26日は「レインボーブリッジ開通記念日」

1993年(平成5年)の今日、東京で東日本最大のつり橋「レインボーブリッジ」が開通しました。

開通したモノは壊されるのが必定。レインボーブリッジ爆撃と言えば…

★本日のTV放送❶【19:54~BS松竹東急/よる8時銀座シネマ】

★本日のTV放送❷【21:00~日本テレビ金曜ロードショー

※偶然とはいえ、オリビア・ニュートン=ジョン追悼番組になってしまいましたね。