漬物石大の光る隕石が庭先にどーん!
その日を境に周りのすべてが狂いだす。
人も土地も虫も猫もアルパカも。
「カラー・アウト・オブ・スペース-遭遇-」(2019年/リチャード・スタンリー監督)
安い邦題をつけられてしまいましたが、ラヴクラフトの『宇宙からの色(異次元の色彩)』の映画化です。
あとタイトルからは想像もつきませんが、65年の「襲い狂う呪い」と同じ話でもあります。
父親の農場を相続して、アーカムの郊外に移り住んだネイサン・ガードナー(ニコラス・ケイジ)とその家族(妻と娘と息子二人と犬1匹)。
退屈だが平穏な暮らし。その目の前に落ちてきたひとつの隕石。
以来、植えた覚えのない(見た事も無い色の)植物が繁殖し、作物は異常発育(見た目はいいが味がゲロマズ)、犬やアルパカ(何でこんなもの飼おうとしたんだ?普通に牛でいいじゃん)の挙動もおかしい。
妻の精神状態も何やら不安定(料理中に野菜と一緒に指切り刻んじゃうし)。一体何が…。
時代設定含めあちこち景気よく変更されていますが、原作の要素はそれなりに拾っています。
台詞の中に「アーカム」「ダンウィッチ」「ミスカトニック」「キングスポート」なんて単語が入り込むだけでもそれっぽい雰囲気にはなります。
ただ、話に幅を持たせようとして付け加えた要素(妻が癌手術でSEXご無沙汰とか、娘がゴスで儀式好きとか隣人が変わり者とか)がビタ一文機能していないので、人は記号と割り切って異常現象を淡々と綴る形の方が良かったような気がします。
変貌を遂げる猫やアルパカや家族の描写にオリジナリティがなかったのもマイナス。
猫は「ペット・セメタリー」っぽいし。
アルパカはほぼ物体X。
肉体融合(悪魔の胎内回帰)はクローネンバーグだし。
ここは「襲い狂う呪い」の独創性を見習って欲しいものです。
結局、最後はニコラス・ケイジのエキセントリックな演技が際立つ事に。
『ひゃっは~!』
家族以外でお話に絡むのはダム建設のための水質調査にやってきた水文学者ワード・フィリップス(エリオット・ナイト。ワード・フィリップスはラヴクラフトのフルネームの捩り)。
水文学(hydrology)ってのは耳慣れない言葉ですが、陸地における水をその循環過程から研究する地球科学の一分野、なんだそうです。
確かにダム建設前調査って感じではあります。
このワードくんが初めて怪異に遭遇した時に読んでいたのが「THE WILLOWS(柳)」。
作者は英国の怪奇小説家アルジャーノン・ブラックウッド(1869~1951)。
ラヴクラフト(1890~1937)と同時代を生きた作家で、ラヴクラフトが一目も二目も置いていた人のようです。
オーガスト・ダーレスとの書簡に於いて《もしも私が「柳」と『信じがたき冒険』を書けたら、もはや作家としての本分は果たしたと感じ、後顧の憂いなど残らないでしょう》とまで言ったほど。
ラヴクラフト好きへの目配せだったのでしょう。
本と言えば、娘のラヴィニア(マデリン・アーサー。ラヴィニアは「ダンウィッチの怪」の重要人物)が「ネクロノミコン」を持っているのですが、これが何とペーパーバック。
いやいやいや、「ネクロノミコン」がペーパーバックはないだろう。
その近所だと17世紀ラテン語版がミスカトニック大学附属図書館にある程度。収蔵状況が判明しているのは5冊のみという超希少本だぞ。それがペーパーバックって…。
まあ半分ジョークのファンサービスだったんだとは思いますが、ちょっとショックでした。
★ご参考
★本来「ネクロノミコン」というのは…
※タイトルは誤記ではありません。タイトルそのものが間違っているのです。
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★本日3月18日はリュック・ベッソン(1959~)の誕生日(おめでとうございます!)
明らかに監督しているより製作やら脚本やらに関わっている事の方が多い人。
今回は監督作2本(1984「サブウェイ」と1988「グレート・ブルー」)の間に製作した謎の作品を。