よくある曰く付き廃墟譚ですが、家を水中に沈めた事で、一味違う「酸欠ホラー」となりました。
「ザ・ディープ・ハウス」(2022年/ジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ監督)
配信時のタイトルは「ザ・ディープハウス ~湖底からの呪い~」。
監督のお二人は「屋敷女」とか「レザーフェイス-悪魔のいけにえ」とか撮った人です。
ベン(ジェームズ・ジャガー←ミック・ジャガーご子息)とティナ(カミーユ・ロウ)は廃墟系V-Tuber(またかよ!?)
今日の訪問先はウクライナ(!)。ヴィーンヌィツヤの廃墟。
あと半年後ならバズり確定でしたが(それ以前に入国できないでしょうが)、静かなウクライナでは何も起きず(多分ロケ地はフランスの田舎だと思いますが)、アクセス数もいまひとつ。
「あーバズりてぇ。何かいいネタないか」
秘密の場所があるとの噂を頼りにフランス南西部の湖まで足を延ばしたら滅茶普通の観光地。
ありませんよね秘密の場所なんか。知ってたよ。もういっそバカンスを楽しむか…と思った矢先、地元の爺さんピエールから耳より情報ゲット。
この先の森の奥に人工湖があるのだが、その底に曰く付きの家が一軒沈んでいる。モンタニャック家だ。滅多に人の立ち入らない、地図にも載っていない秘密の場所だよ。
秘密の場所!? マジすか行きます潜ります。
という訳で、水中ドローン「トム」も引き連れ湖の中へ。
言われた通りの場所にその家はありました。ありましたが…。
壁中に張られた無数の子供の写真。行方不明者捜索のポスター。遊具。あからさまに怪しいグッズの数々。
キッチンにはキリスト像。その向こうに隠し部屋。待っていたのは…。
単なる廃墟を湖底に持ってきたことで、閉塞感・窒息感が倍増。
閉暗所恐怖症の人にはキツい映像かも。
水中にした事で残念だったのは、絶対ヤバイものが映っている8mmフィルム(スーパー8)を発見したのに映像の確認ができなかったこと。
水中の物理法則に死者も生者も縛られているので、動きがやたらとスローモー。ロメロ式ゾンビリスペクトと言えなくもないですが、今日の映画としてはもちっとスペクタクルな見せ場が欲しかったかなぁ、とは思います。
劇中、何度か引用されるモンタニャックの家訓「死ではなく永遠の眠り」。
これは(IMDbのトリビア頁によると)ラヴクラフトの「無名都市」「クトゥルフの呼び声」で引用された四行連句、
"That is not dead which can eternal lie, And with strange aeons even death may die."
のフランス語訳なんだそうです。
英語→仏語→字数制限のある日本語字幕という高度な伝言ゲームなので致し方ありませんが、きちんとそれっぽく訳すなら、
「そは永久に横たわる死者にあらねど 測り知れざる永劫のもとに死を超ゆるもの」(大瀧啓裕訳)
とか、
「それは、永久に横たわるだけの死者ではない。死すら死に絶える人智を越えた『永遠』のもとに」(田邊剛訳)
とかになるのですが、これはまあないものねだりでしょう。
★ご参考~何かが足りないモーリー&バスティロ監督の近作。
★本日6月11日はジョン・ウェイン(1907~1979)の命日。
ジョン・ウェインと言えば西部劇、個人的推しは「リオ・ブラボー」と「11人のカウボーイ」ですが、今回はちょっと珍しい現代刑事モノを。