『続行…』
この一言のために今日も遺影が飾られる。
『白井、俺はやっぱり機械にはなり切れなかったよ』
《あの遠藤はかつて学生時代、ショパンの音楽に涙を流した。遠藤はもはや人間ではない。副官と言う単なる機械だ。俺は死ぬ瞬間まで美しく正しく本当に生きたいと思う》
しかし、軍隊の中でその願いを守り続ける事は、生きているうちに自分を殺すより難しい。
シリーズ8月15日。今年のチョイスはこちら。
「最後の戦斗機」(1956年/野口博志監督)
当時のポスターには「泣け!日本国民」というサブタイとも惹句ともつかぬ文言が付いておりますが、本編タイトルはシンプルに「最後の戦斗機」です(にしてもなんちゅう押しつけがましいキャッチだ。余計なお世話も甚だしい)。
時に沖縄陥落。日本の空と海が米機動部隊に制圧された大戦末期。
予備学生出身の将校で占められていた南九州の第203海軍航空隊基地。
残りわずかな戦斗機を駆って繰り返される特攻。
司令部の情報係・白井中尉(葉山良二)は「このままでは犬死」と作戦の中止を進言しますが、着任早々の司令・関根少佐(西村晃)の答えは一言「続行…」。
一度始めたら引くことを知らないこの国の性格は今も昔も変わっておりません。
時事ネタに引っ掛けるのは禁じ手にしているのですが、「マイナ保険証問題」のレミング大行進はまんまこの時の日本軍のトレスです(西村晃が河野太郎と重なって仕方ありません)。
選抜される「菊水十号作戦第三次特別攻撃隊」5名。
菊水作戦は1945年4月6日の菊水一号作戦から6月22日の菊水十号作戦まで行われました。十号作戦第三次という事は正に最後の攻撃隊という事です。
情報係という立場上、特攻参加メンバーではなかった白井ですが、基地がグラマンの襲撃を受けた際、十号作戦参加指名を受けていた同僚の三木中尉が、自分の身代わりのような形で機銃を浴びたため、自ら特攻に志願。しかし…。
反目し合う司令と白井の間で苦悩する副官・遠藤(大坂志郎)が良い味わい。
白井に(日記の中で)「機械だ」と罵られますが、最後には…。
菊水作戦終盤(七号作戦の途中から)で使用された特攻機は(元々は機上作業練習機であった)「白菊」。
そして、司令・関根少佐を演じた西村晃は、徳島白菊隊の特攻隊員でした。
出撃機不良で基地に引き返し終戦を見届けた後に、8月23日(徳島空の白菊特攻隊員に志願するも、出撃することなく終戦を迎えた中原一雄海軍中尉と長島良次海軍少尉が、海軍の正装に着替えて、祖国の再興を願いながら基地内の防空壕で互いを機銃で撃ち合って自決)を迎えたそうです。
人に歴史ありです。
★シリーズ8月15日
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