家族ひとりの命と全人類の命を天秤にかける。
家族ひとりを差し出して地球を救うか、拒否して人類を滅亡させるか。
シャマラン流「Make your choice」
「ノック 終末の訪問者」(2023年/M・ナイト・シャマラン監督)
森の中のキャビンで週末を過ごしていたレナード、エリック(同性愛夫婦)と幼女ウェンの元にやってきた4人の招かれざる客。
押し入って来た4人はレナードとエリックを拘束して頼む。世界を救ってくれと。
間もなく世界は終末を迎える。回避する方法はただひとつ。君たちが家族からひとりを選んで犠牲(sacrifice)として差し出す事だ。
無茶な事を言っているのは分かっている。しかし、他に方法がないんだ。選んでくれ。
は? 何言ってんだお前ら。夢でも見たかヤクでもキメたか。家族を差し出せ?ふざけるな!
当然の拒否回答。すると4人は各自がもっている武器(大型工具を組み合わせたいかにも儀式に使いますって感じの頭の悪そうな奴)を仲間のひとりの脳天に叩き込み…。
テレビをつけると地球規模の災害が。
どうやらレナード&エリックが拒否ると、4人のうちの誰か(予め順番は決まっているらしい)が粛清(?)され、地球は滅亡の針をひとつ進める、という手順になっているようです。
理不尽の佃煮、不条理の玉手箱、シャマランのお家芸「無茶振りやり逃げ企画」です。
全人類の命を秤にかけた交換条件。
はて、似たような設定の話を大昔にどこかで…。
小松左京の短編小説「すぺるむ・さぴえんすの冒険」だ。
『お前を人類の中からただ一人えらんで、宇宙の一切の秘密と真理を教えよう。その代償に、こちらは二百二十億の全人類の命をうばう……』
地球の最高指導者である主人公ミスター・Aに「あるもの」が提示した交換条件。
小松さん「あるもの」の存在好きですよね。「エスパイ」のクライマックスにも
『キリストを試したのは私なんだよ』
とか言い垂れる「あるもの」が登場してましたし。
恐らく「あるもの」が見せたんじゃないかと思える破滅のビジョン。
受け取ったのは4人。彼らは自分たちが偶然出会うところまで幻視し、その通りになったのでビジョンを現実として捉えることにしたようです。
なんで地球の終わりという巨大スケールのビジョンを見たのが全員アメリカ人で、しかも偶然出会える範囲に住んでいたのかは分かりませんが。
もうひとつ、この映画を観た多くの人が思いつく言葉に「人の命は地球より重い」ってのがあると思います。
発したのは(少なくともメジャーにしたのは)福田赳夫首相でした。
1977年秋のダッカ日航機ハイジャック事件の際、犯人側の要求である「逮捕されていた仲間の釈放」を「超法規的措置」として飲んだ総理大臣・福田赳夫のお言葉(言い訳とも言う)。
福田赳夫かぁ…てっきり高名な思想家の言葉かと思っていたのでがっかり感が半端ないです。
しかし、これ以前にもこの台詞は聞いた気が…。
岡本喜八監督の「独立愚連隊西へ」(1960)だ。
『人の命は地球より重いか軽いか……意外に重いんだなあ』
独立左文字隊のリーダー左文字(加山雄三)の台詞。
良かった、この問いかけは福田以前からあったんだ。
さて、家族3人を除く全人類が死に絶える結末を選ぶか、家族ひとりを差し出して絶滅を回避するか。彼らの選択は…。
★シャマラン印の不条理劇
★難しい事はいいんだよ、な岡本印の痛快活劇
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